セックスしないほうがエロいから、しないだけ
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 前編・中編に続いて、今日も「フラート」をテーマにお届けします。フラート(flirt)は日本ではあまり馴染みがない言葉で、この連載を読んで「初めて知った」という感想をツイートしてくれた人もいました。簡単にフラートのおさらいをしておくと、例えば友達以恋人未満のザワつく関係や、バーや合コンで誘惑の視線を送り合ったりと、そういう“微量のエロス”をふくむやりとりや関係性のことを指します。
森田 「私の好きなあれはフラートだったんだ!」みたいなツイートもあったよね。言葉としては知らないけど、感覚としてはよく知ってるという。嬉しい感想でした。
ワッコ フラートがわからない“フラート弱者”な清田代表とわたしからすると、「そんなにあっさりわかるの!?」と思ってしまいます。中編ではわれら弱者的な視点から「フラートはおしゃれ」という結論にたどり着きましたよね。
清田 その場で生まれる刹那的なエロスを楽しむところが“粋”でおしゃれだなと。
ワッコ 刹那的にエロい雰囲気になってもセックスしないわけだから、いわゆるワンチャン狙いとは違うんですよね。がっつかないところに余裕を感じます。
森田 「刹那的」という言葉は行きずりの相手とのやりとりを連想させそうだけど、例えば友達どうしでもふとした時にフラートになる可能性はあるよね。
ワッコ わたしの友人は、「自分の男友達にはセックスの可能性が『なし』な人はいない。『あり寄りのあり』な男としか友達にならない」といつも言ってます。
森田 「あり寄りのあり」は結構強い肯定だなあ。
ワッコ 彼女は、人間的にも男性的にも惹かれる人以外とは友達になれないらしいんです。といっても実際にはセックスしないから、まさにフラートなんですよね。たまに手が触れたりしたらドキドキするし、自分がフラートな雰囲気を出しても相手は引かないと言ってました。
清田 お互いを「女」/「男」として見てるのね。
ワッコ 「セックスしないほうがエロいからしないだけだ」とも言ってました。
森田 友達に対してそこまで言い切れるのはすごいけど、異性の友人にフラートな感情を抱くことはあるよなって思う。“フラート弱者”的には、それもよくわからない?
ワッコ 身に覚えがないですね。
清田 ……いま思い出してしまったのですが、実はかつて、一度だけ女友達とフラートな瞬間をともにしたことがあります。
フラートからの踏み外し案件
ワッコ まじですか? 前編で得意げに話してた、間接キスの勘違い案件みたいなやつじゃないんですか?
清田 それとは別の話で、10年来の女友達との間で起こった出来事です。
森田 詳細をお願いします。
清田 その少し前の時期に、彼女は上司と泥沼不倫して、心も身体もぼろぼろになって休職してしまっていたのよ。幸い比較的短期間で復職できたから、快気祝いも兼ねて飲むことになった。
ワッコ 泥沼不倫つらい。。。復職できてよかったですね。
清田 彼女は今も同じ会社で元気に働いてるから、そこはほんとによかったなと思う。その夜飲んだお店は俺の家の近くだったので、飲み終わった後にうちに遊びにくることになったんだよね。当時住んでいたマンションは屋上からの夜景がキレイで天気もよかったから、そこに出てしばらくぼーっとしてたの。そしたら、ぴゃ——って流れ星が流れたのよ。
森田 ロマンティックだね。
清田 うん。それで明らかにいつもとは違う、なんだか妙な、張り詰めたような空気になってさ……。さすがの俺でも「えっ!? これって何か起こる流れでは?」ということがよくわかったのよ。
ワッコ ドキドキしてきました。
清田 そこで私は意を決し、「キスしてもいい?」と聞きました。
ワッコ え——!!!!
森田 「そこは聞くなよ!」ってツッコミが盛大に入りそうですが(笑)、その子と清田との関係を考えると無理ないよなと思う。俺も彼女と昔からの知り合いなのでわかるんだけど、清田とは「ど」がつくくらいの友達だから。
清田 “どフレンド”ですよ。今でもその友情関係は続いてるし。
ワッコ どフレンドにエロスを感じたんですか?
清田 完全に感じましたね。