九螺ささら「きえもの」

九螺ささら「きえもの」【鳩サブレー】

夢の中で生まれて鳩尾(みぞおち)になった鳩が、
鳩サブレーの尾を激しく欲している。
――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

 オカリナを焼くときに出来る副産物鳩サブレーとは食べられる楽器


 リョウちゃんは幼なじみで、今中学の先生をしている。

 その中学は毎年春に鎌倉に遠足に行くため、リョウちゃんは毎年わたしに鳩サブレーを買ってくる。

 リョウちゃんとわたしは付き合っているが結婚できない。

 リョウちゃんが両性具有でそれをリョウちゃんが気にしているため、わたしが誰かと結婚するまでのお付き合い、とリョウちゃんが決めているのだ。


 けれどわたしも両性具有だ。

 2×2で4つの性交が出来てラッキーとわたしは思うのだが、リョウちゃんは深刻に考え込む。

 戸籍上はリョウちゃんが男性でわたしは女性だ。

 結婚も、国民であることが二人のアイデンティティーの中心でもないのになぜ国に申告しなくちゃならないのか分からない。

 けどリョウちゃんは「それがちゃんとすることだから」と戦争時代のおじいちゃんみたいな口調で言う。


 わたしは思い切って、体の機能が女性だけになる手術をした。

 なのに、リョウちゃんも、体の機能が女性だけになる手術をした。

 そして戸籍も女性に変更してしまった。


「これで結婚できないよ」苦しげにリョウちゃんは言う。

「早く結婚しなさい、僕じゃない誰かと」

「女」のリョウちゃんは、昭和のお父さんみたいな口調で言う。


 わたしは泣きじゃくりたいのに、体じゅうの栓が詰まって声も出ない。

(どういうこと?)

 聞くことも出来ない。


 テーブルにはまた今年の鳩サブレーが。

 わたしは鳩サブレーの頭をたたく。粉々にする。いつもなら頭は食べないのだけれど。

 それを二人の愛の形にしていたつもりだったのに。

 もう、どうでもいい。


 夢の中で生まれて鳩尾(みぞおち)になった鳩が、鳩サブレーの尾を激しく欲している。

 わたしは鳩尾にエサをやるように、鳩サブレーの尾の部分を食べる。


 リョウちゃんとわたしが切り落とした男性器はホルマリン漬けにしてある。

 その二つが鳩尾になり、現実から逃げるように飛び立っていくのが見えた。



 鳩サブレーのモデルになった伝書鳩剥製になり愛を伝えてる


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新潮社
2018-09-21

この連載について

初回を読む
九螺ささら「きえもの」

九螺ささら /新潮社yom yom編集部

初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した歌人・九螺ささらによる、短歌と散文が響き合う不思議な読み物。電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

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