家族は難しい。定義からして難しい。どういう状態なら家族ですという明確な基準がない。そんなもんだから歌みたいに「家族になろうよ」と言っただけじゃなれない。構成員として勧誘するのだから相手にその意志がなければグルーヴは生まれない。いや結成だけじゃなくて維持だってそう、捺印して世帯や戸籍をご一緒したところで、同じくハンコひとつで解散も可能だ。
そう、家族は難しいのだ。前回の結婚(※)がそれを教えてくれたのだが、月並みながら離婚して初めてその難易度を体感したのだ。家族、ただ好きでいればよいような恋人関係とはワケが違う。もっと信頼や利害について現実的かつ切実な要素が必要になる(ようだぜ)。そしていま私は再び家族の芽生えの真っ只中にいる。気を引き締めていきたい。
産後、出生届と育児手当の申請をしに役所へ行った。婚姻届と同じく「おめでとうございます」と職員からさほどめでたくなさそうに言われ苦笑しつつ、それでも各担当が口頭でお子を「さん」付けし、書類では「様」と記すので「おれよりよっぽど子供を人として扱うもんだな」なんて感心した。そして戸籍と住民票が作られ、晴れて公にお子は都民および我が世帯メンバーとなった。よっ、本人家! 帰宅して3人編成の住民票を妻と眺め、ふたりしてもう出産後何度目だっつう「うおお……」というおののきのため息を吐く。私のパートナー、扶養者。家族のほう、ひとつよろしくお願いします。
そして、家族ということで欠かせないメンバーが猫だ。子供はいずれしゃべるなんなりして我々と社会性を交差させるだろう。だが、猫さんにおかれましてはしゃべれないし、そもそも種が違いすぎる。おれと妻と子と、猫。4体は家族になれるだろうか。
猫と同居を始めたのは、妻と出会うさらに前。もう5年以上の付き合いになる。離婚したあと心と敷地のスキマを埋めるべくジョインしていただいたのだ。もともと犬を里親からもらいたかったが、ポンコツのバツイチリーマンが「独居つらいつらいを癒やしたいんよ」とつぶやいたところで、犬猫を幸せにさせてあげたい里親センターのスタッフが快くマッチングさせてくれることはなかった。数件断られて心が折れた末に迷い込んだペットショップでセール中の奇跡がいて、それが猫だった。
「犬を」と思っていた手前、当初は猫と密接な関係を築くなんてできないだろう、と思っていた。でも暮らし始めてみたら、私がすっかりまいってしまった。なんていうか、猫はサブカルメンタリティだ。mixiコミュ「一人が好きで独りが嫌い」にいるのかなってくらい絶妙な距離感を維持して我々を翻弄してくる。こちらがソファで落ち着いてると、隅にちょこんと乗ってしっぽだけ触れた状態にするとか、作業に集中したいときに限ってMacBookのキーボードに寝そべるとか。愛嬌でとろけさせてくれる犬と違って、猫は恋心を刺激してこちらを魅了する。それが密な付き合いというかはともかく、私にとっては最高なんです。
そんな猫だが、同居開始から数年にわたり、激動の生活を強いられた。ルームシェアなど同居人が激しく入れ替わるマンション。激務とうそぶき帰らぬ家人。数年経ったら引っ越しで、慣れない新居には見知らぬ女(妻)がいて、しまいには赤ん坊が緊急参戦! 本当に申し訳ない。今こうして日々ギャン泣きする子を抱えながら「こいつのお気持ちマジわかんねえ!」とは思うけど、そういえば、おれは猫のことも本心をつかめないまま今に至ってた。おやつを出せばとろけるような声でゥニャンゥニャンとすりよるとか、寒そうなときには布団の中に入ってくる程度の付き合いはあるけど、実際のところ、猫は何を考えて日々を生きているのだろう。毎日、サイエンスダイエットしか食わされてない中でも愉快な気持ちでやれていると願いたいが……。
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