育休期間中、我が家に「おたくの新生児とか無事に育ってるー? てか虐待とかしてないー?」的に保健所から助産師がやってきた。最初は教科書的アドバイスを「あざすー」と聞いてた我々だったが、後半の身体検査でおもむろに子供のオムツを脱がせてちんちんを触りだしたときは「えっ!」と震えた。なんでも、最近の男児はペニスの皮を親が幼少のうちに剥いてやるんだそうです(昔は中学あたりに自分で剥いてたってことをマンガ『行け!稲中卓球部』で確認してほしい)。や、だからってうちの子によそ様の急なおさわりを許した覚えないぞ……?
お子に対する罪悪感のようなモヤモヤを頭の片隅で育みながら、助産師を見送る。玄関を閉めてから「さっきのあれ……な」「ね……」と顔を見合わせる夫婦。私たちは「あの子のアレ剥く係は任せるね」「まかせろ」などとタスクの切り分けをしながら、育児を進行させていた。蒸し暑い6月、ちょうど昨年の今頃に初デートの約束を交わしたくらいなのに、気付いたら新人教育の日々だなんてジェットストリームすぎる。
物心ついたときから結婚したくてたまらず、異性を「結婚できるかどうか」という目線でばかり見て、一度は失敗もしている(※)。「もはやこんなポンコツアカウントに本当の幸せは」と諦めかけた矢先の鉄砲玉みたいな相手。よく笑いよく動く、すぐ火がつくところも含めまっすぐな女性。平成くさい日本語で言えばおれたちいわゆるデキ婚夫婦だが、そんなワンチャンでユニット組めたのは本当にありがたい。
スピッツ「運命の人」の歌詞みたいな世界観のもと、これから死ぬまで新しい命の刺激的な育みをたくらんだり、近場へのデートを繰り返したりできるといいなと思いながら、今日も暮らせている。育休期間は最初こそ「マジ途方もない……」と思ったが、一連のルーチンができると自分の中ではやんわりと各タスクの規模感も見えてきて、退院直後に仕事を兼ねながらの荒れ模様に比べるとずいぶん夫婦仲もよくなり、「妻……マブい……」という気持ちもどっさり積み重なってきていた。
当然のことながら、我々は産後からこの1ヶ月間まったくセックスしていない。自宅にほぼ缶詰でふたりきりでいるというのに、だ。
なにしろ妻の体はとにかく大変そうっていうのがある。経産婦は妊娠期間に平常時の約100倍に膨れた子宮が、出産とともに胎児や羊水や胎盤を大放出してかさぶた丸はがし状態になり、血なり分泌物なりを出す悪露(おろ)が約1ヶ月ずっと続く。しかも彼女はリリースに際して会陰まで切開されている。おれも痔の手術を経験しているので、その部位の地獄は想像余裕。あれ本当つらいんよ。
さらに吸われ放題の乳はヒリヒリするだけでなく、乳の出し方をミスるとしこりになって痛む(たわむれに揉んでうめかれたこともある)。トップス、ボトムス、インサイド総修羅。そんな人に「なあボインちゃん、行為しようや」なんて果たして言えるだろうか(言ったは言った)。
しかしまあなんだ。私は、男たちの喫煙所トークにありそうな「出産後、妻がママに」とか言ってセックスレスどころか恋愛感情すら失ったって話が自分に当てはまらなさそうなことに安心していた。一緒にいる時間が長すぎて所帯じみたとか、グロい分娩見て生理的に無理ーとなったとか、理由はいろいろだが、まあそういうことあってもおかしくないだろとは思っていた。しかし今日も妻は素敵で、おっぱいを欲しがる子の求めに応じてTシャツからTAWAWAを放り出す様子をひとつ屋根の下にいながらア——よみがえる性的衝動とか思ったりしている。
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