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T社第六IT事業部、新規事業開拓課、第三フィンテック活用推進室の白大理石エントランスホールには、SuiCa改札のような磁気カード接触式のゲートが2つ。
今は両方とも赤信号。ちょっと妙だった。誰も入れたくないのか。
「おはようございます、いらっしゃいませ」
青いスカーフの受付嬢が、おれ達に気付いてインフォメーション台から声をかけた。
どうも手元が怪しい。仕事をサボってファッション雑誌でも読んでいるのか。
「おはようございます」
前を歩く奥野さんが、小さく一礼する。一方、おれは挨拶せず、手元のスマホをいじる。
「アポイントメントはございますか?」
受付嬢が笑顔で問いかける。高天井のホールにいるのは彼女だけだ。
「はい。こちらは記帳式ですか?」
奥野さんが答え、記帳台の方に向かった。受付嬢の目は当然、そちらに向く。
そこでおれは動き出した。
「悪いけど、急いでるんで通らせてもらうぜ。四七ソだ」
おれは改札フラップを蹴り壊して、強引に改札ゲートをくぐろうとした。自分でも驚くくらい乱暴に、これ見よがしに。
「死神め……!」
聞こえたのは、おっかない声だった。
受付嬢が舌打ちし、海外ファッション誌の下に隠していた何かを掴み取っていた。違法に3Dプリントされたソードオフ・ショットガンだ!
BLAMBLAMBLAM!
ほぼ同時に、記帳台の前にいた奥野さんが、振り向きざま、受付嬢の頭を三点バーストで撃ち抜いた。
「ンアーッ!」
BRAKKA!!
間一髪。ショットガンの狙いは逸れ、散弾はおれの斜め上のほうに飛んで、黒大理石の壁に掲げられた変な現代アート風の絵をズタズタに引き裂いていた。もっと現代アートっぽくなったんじゃないか。
「奥野さん、ナイッシューです」
「うまくいきましたね」
連携もだいぶ板についてきた。
奥野さんが上司という設定は鉄板だ。ただでさえ貫禄がある。見張りの目は、たいてい奥野さんの方に向けられる。おれはその後ろで目を盗んでスマホばかりいじっている、無能な若手社員ってとこだ。
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