男が言われて100%傷つく言葉

どうしても許せないことがある、と池崎が語り始めた内容に、世の中の男性の100%が同意するかもしれない。

実の息子と主張する幕田に、メンヘラだと断定されてしまった百鳥ユウカ。

しかし、ユウカの告白は少なからず池崎と高畑を動揺させた。

ユウカがどんな学生時代を過ごし、いまの性格が形成されたのかを目の当たりにすると、すこし同情のような意識が芽生えていたのはたしかだったが、 それでも、池崎にはユウカを許せない部分があった。

池崎はこれまで溜めていた思いをユウカに伝えた。

「僕がユウカさんを許せないのは、そうやっていつも誰かと比べてるからだよ。
僕だって比べられてた。それくらい許しなさいよっていうのがユウカさんの言いたいことなのかもしれないけど、僕がそれを許したら男としてのプライドがなくなっちゃう。
だから、それだけは納得するわけにはいかない。いつも男をそうやって比べて試して選り好みして……そのことが一番許せないんだよ!
比べられる男の気持ちなんてわかんないでしょう」

「別に比べてなんか! ……」反論の続きを口にしそうになったユウカを遮って、高畑が語り始めた。

「女はみんな比べる生き物なのかもしれないね。
男は構わず種まきをするけど、女はより立派な遺伝子を残そうとする。 本能だなんて片付けたくはないけどね。 僕も彼女と結婚して子どもまでつくったのに、ずっと昔から付き合ってた彼と比べられてたんだって思うんだ。 そして結局、彼女は向こうの彼のところへ行ってしまった。 今まで彼女と暮らしてきた日々すべてが否定された気がしたよ。 始めから彼女はぜんぶ彼と僕を比べていたんだ。 それできっと、収入も負けてたし、優しさでも負けてたし、セックスでも負けてた……そんな風に色々と考えると、プライドがズタボロになったよ。
自分にはそんなもんないと思ってたのに、悔しいけどあったみたいだ。 彼女はさばさばした人間だと思ってたけど、彼と一緒のときは違うのかもしれない、とか、もっと世話焼きなのかもしれない、とか、くだらないことをぐるぐる考えてしまったり、そんなこと考えるなんて自分らしくないって思いつつも考えてしまう自分が猛烈に嫌だったね。 誰かと比べて落第させられることが男は一番怖いんだ」

いつだって奔放で、嫌味のような大人の貫禄があって、過去の結婚のことだってまったく傷とも思っていないような振る舞いをしていた高畑からの告白に、池崎は何も言えなかったが、ユウカは違っていた。

「何よ、それ。だって高畑さん言ってたじゃない。
許嫁で好きでもない女性と結婚した、って。 それくらいの気持ちだったくせに、何今さら偉そうなこと言ってんの?  女はねぇ、そういう男の気持ち、敏感にわかるんだからね。
それくらいにしか自分のこと思ってない男の安っぽいプライドなんて、守る必要ないわよ」

「ふふ……そうかもしれないね」

高畑の消え入りそうな言葉に、今度かぶせてきたのは池崎だった。

「なんだよそれ、ユウカさんはいつだって、自分が一番正しいって思ってる。
それでこっちが傷つくことなんてまったく気にしてない」

人を傷つけるなんてことを言われて黙っていられないユウカ。

「何いってんのよ。こっちはその男のプライドとかいう、ちいちゃなやつを気にして、一応は気遣って生きてんじゃない。 そもそもプライドがどうのって言うこと自体がちっちゃいのよ!!」

「それだよ、ユウカさん。僕がずっと忘れられない言葉がある。バラエティ番組で、お笑い芸人とアイドルのカップルのデートが再現されてたとき、ユウカさんはこういったよね。『うわっ、ちっちゃい男』って。
僕はそう思わなかったけど、ユウカさんのその言葉がずっと脳裏に焼きついて離れないんだ。ユウカさん知ってる? ユウカさんがな〜んにも考えずに口にしたその言葉が、男に対して最大の侮辱みたいになる時もあるってこと」

「何よ大袈裟ね。ただ本音を言っただけじゃない。細かいことは忘れたけど、あの男、確かにちっちゃかったよ。なんかしょーもないことで彼女に嫉妬して。男ならドーンと構えてろっつーの!」

「だからさ、そうもいかない時もあるんだよ! 男に『ちっちゃい』とか言う女はサイテーだ!」

「あっそう! じゃあ池崎は私をサイテーだと思ってるってことよね。
わかったよ。もういいよ。結局、自分のプライドが大事って、ただそれだけじゃない。相手がどうだから……なんて、ただの言い訳よ」

「じゃあ、ユウカさんは違うの? いつだって言い訳じゃん。あなたがこうだから……あなたがこうしてくれないから……って。違う?」

「うるさい! あなたがそうやって突っかかってくるから……話が先に進まないんじゃない」

「ほら、またあなたが、って」

議論が堂々巡りしていることを気づかせようと幕田も口を挟む。

「ふぅ。まったく二人とも落ち着いてくださいよ。30歳すぎの大人でしょう」

「僕はまだ20代だ!」

池崎は額に血管を浮かび上がらせながら、吐き捨てるように言った。幕田は言い争ってる2人の間にすすんで立って言った。

「失礼しました。でも、こんなの子どもの喧嘩と同じじゃないですか。池崎さんはユウカさんのことが好きなんですか? 嫌いなんですか? 二択ですよ。どっちでもないはないですからね」

「……」

「ユウカさんは、池崎さんのこと好きなんですか? 嫌いなんですか?」

「……好きに決まってんじゃない。嫌いな人とこんなに長い間一緒にいたり話したりすると思う?」

「あはは。正直なところだけが母さんの取り柄だね」

「はぁ?」

「ちなみに、僕はユウカさんのこと嫌いだけど」

高畑が爆弾を何気なく放った。

「僕は……僕はユウカさんのこと許せない。でも……嫌いになんてなれないよ」
池崎の消え入りそうな声が静まり返った部屋に寂しく響いていた。

(つづく)

<イラスト:ハセガワシオリ

この連載について

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結婚できない2.0〜百鳥ユウカの婚活日記〜

菅沙絵

友人たちが彼女につけたあだ名は「レジェンド・ユウカ」。結婚市場に残された最後の掘り出し物という意味だと説明されたが、たぶん揶揄する意味もある。妥協を知らない彼女が最後にどんな男と結婚をするのか、既婚の友人たちは全員興味深げにユウカさん...もっと読む

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