暗く救われない物語が、人を救うこともある
——いま連載中の『おやすみプンプン』は、かなり見ていてつらいシーンがありますが、そういうシーンを描いている時、自分もつらくなることはありますか?
浅野いにお(以下、浅野) 僕のマンガはわりとシビアに思われる話が多いですね。でも僕としては、あんまりシビアだと思ってないんです。僕のマンガのキャラクターに悪いことが起こるのは、つねに自業自得なので。キャラクターが悪いと思ってるから、あまりつらくならないです。
——一読者としては、もうちょっと救われてもいいんじゃないかと思ったりするんですが……。
浅野 いや、こんなものでしょう。これは、僕がマンガを描くモチベーションの話につながるんですが、そもそもなぜこういう話になってるかというと、暗い話やひどい話を描きたいと思ってこうしてるわけじゃないんです。僕は、世の中にあるマンガは明るい物が多すぎると思っています。隙間を狙ってそうじゃないやつを描こうとしたら、必然的にこうなったんです。
——世の中のマンガに対するアンチテーゼなんですね。
浅野 他のマンガが悪いわけじゃないんですけど、売れるものを見ていると、みんなほんと「元気づけられるマンガ」が好きなんだな、って思います。
——ああー、好きですよね。ピュアな主人公が救われる話とか、努力が報われる話とか。
浅野 大好きですよね。でも、自分が10代の頃はそういうものにあまり救われなかったんです。逆に、何の救いもないマンガのほうが、僕を救ってくれた。例えば、古谷実さんの『ヒミズ』(講談社)は、後ろ向きな人間が主人公として週刊誌に載ってること自体に救われました。後ろ向きであることが正しいというわけではないですけど、それを人に見えるようなところに存在させてくれたのがよかった。
——今の若者にも、そういう救われないマンガに救われる人はきっといますよね。
浅野 別にね、嫌がらせのために嫌な話描いてやろうとか……いや、まあちょっと、何も疑っていないほがらかな人たちを驚かせてやろうとか思うことはありますけど(笑)。ああ、だから、僕、嫌われるんですよ。こういう嫌なマンガを見せてくれるな、って思ってる人はいて、「あっ、嫌われてるな」と思うことがあります。まあしょうがないことなんですけどね。
僕はかわいい女の子になりたい
——以前、コンプレックスが創作のもとになるというお話をされていました。
浅野 そうですね。もともとのコンプレックスは、身体的なものなんです。僕、胸骨の下のほうが、少し内側にへこんでるんですよ。見ればすぐわかる。だから小学校の時、学校の授業でプールに入るのがすごく苦痛でした。
——『虹ヶ原ホログラフ』(太田出版)にもそういう男の子が出てきますね。