本文よりもおもしろい!? 文庫本の「解説」ベスト5を選んでみた

日本特有の奇天烈不思議な文庫本の文化って、なんだと思いますか?それは「解説」。本編が長すぎて飽きてしまったり、どう解釈していいかわからないときにも、解説は大活躍。ときには解説の方が本文よりもおもしろかったりして。文庫本に解説がなければ、イチゴのないショートケーキを食べるも同然ですよ!
『人生を狂わす名著50』著者による、濃厚な書評エッセイ。

①『辻村深月編 江戸川乱歩傑作選 蟲』(文春文庫)
②向田邦子『夜中の薔薇 新装版』(講談社文庫)
③カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』(ハヤカワepi文庫)
④谷崎潤一郎『細雪』(角川文庫)
⑤森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)


 ……突然ですが、問題です。
 ①~⑤に当てはまる共通項は、何でしょう。

 はい、わかる方いらっしゃいますかね。難しいかなー。




 ちっちっちっち。



 時間切れです。さて、答えは。
「解説が傑作であること」です!!!


本文よりもおもしろい!? 文庫本の「解説」ベスト5を選んでみた

 文庫本の解説。それはめくるめく書評の世界。日本特有の奇天烈不思議な解説文化。
 日本初の「文庫本解説」は、戦後の新潮文庫、川端康成の『雪国』だったと言われていますが。わたしは文庫本を買うと、ついつい解説部分を楽しみにしてしまうことがあります。
 もっと言うと、本編が長すぎて飽きてしまったり、どう解釈していいかわからないときにも、解説は大活躍。ときには解説の方が本文よりもおもしろかったりして。
 文庫本に解説がなければ、イチゴのないショートケーキを食べるも同然ですよ!

 しかし、考えてみれば「解説」とは不思議な文化。
 だって、著書の言葉じゃない言葉が、本の最後を締めくくるんですよ。解説次第で、本の印象も、少し変わってしまうかもしれない。解説が良ければ、不思議と本の印象そのものも良くなる気がします。
 もちろん本文がおもしろからこそ解説も冴えわたるってものですが。己の身を呈して本文の良さを倍増させている素敵な文庫本解説たち、もっとスポットライトを浴びてくれー!! との思いから、今日はわたしの好きな「文庫本解説」たちをご紹介します!


まずは、

①『辻村深月編 江戸川乱歩傑作選 蟲』(文春文庫)

江戸川乱歩の短編小説たちを、若い層を中心に大人気の小説家・辻村深月さんが選んで収録した文庫本。このシリーズ、実は湊かなえさんが選んだバージョンと桜庭一樹さんが選んだバージョンもあります! なんて豪華な編者たち。いかに乱歩のエンタメ小説界への影響が強いか分かりますね。だけど、私は辻村さんバージョンが一番好き。「蟲」や「芋虫」といった乱歩の変態的名作が選ばれているのもあるけれど、なんといっても辻村さんの編者解説「あまりに優しき、青春の書」が名文すぎるから!

今ならわかるけど、十代の頃、私は乱歩の描くそれらの世界に自分の居場所を求めていた。
日向の教室の“正しさ”より、“正しくないかもしれない”乱歩の世界の方がよほど身近に感じられた。(『辻村深月編 江戸川乱歩傑作選 蟲』より引用)

 学校や思春期を舞台とする辻村ワールドの根幹は、実は江戸川乱歩なのかもしれない……と思ってしまう名解説なのです。


影響が大きいといえば、昭和の名脚本家のエッセイ集

②向田邦子『夜中の薔薇 新装版』(講談社文庫)

 解説は、爆笑問題の太田光さん。こちらも「太田光ってそんなに向田邦子の影響受けてたの!?」って驚いてしまいます!
 もう、向田さんのエッセイに対する太田さんの熱弁ぷりといったら。爆笑問題の笑いの根幹には、向田邦子のもつ鋭さ、やさしさ、恥じらいのようなものがあるのか? なんて、お笑いにたいして詳しくないわたしですら考えてしまうほど「熱」のこもった解説です。さらに向田邦子に負けないほどに太田光さんは文章が上手で、惚れ惚れしてしまう。


小説を読み終わった後に解説を読んで、「そうそう、わたしも同じ感想を持った!」と共感のあまり頷きすぎてしまうのも、解説の良いところです。

③カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』(ハヤカワepi文庫)
④谷崎潤一郎『細雪』(角川文庫)


 両者の解説は、わたしにとってそんな存在。
 ノーベル賞作家イシグロの小説『わたしたちが孤児だったころ』の解説は、日本の小説家・古川日出男さん。「孤児たちは気丈に生きる。孤児たちは愚痴をこぼさない。孤児たちは“自分がうまくやっている”と思う。」という書き出しで始まる解説文は、まるで解説そのものが小説のエピローグのような、ある意味解説がそのまま小説になるような。けれど読み終わったあとに「そうだよね、『わたしたちが孤児だったころ』ってそんな小説だよね……」と深く頷いてしまうんです。読後感にじんわり寄り添ってくれる、バスロマン系解説です。
『細雪』の「新版解説」は、哲学者の内田樹さん。彼が「無人島に一冊だけ本を持っていってよいと言われたら、迷わず『細雪』を持ってゆく」と仰る理由を述べるのですが、『細雪』の本質をすくいあげつつ、「なぜわたしたちは『細雪』を読むとこんなに幸せで切ない感情に襲われるのか?」という疑問に応えてくれます。この解説を読んで以来、わたしも無人島へ持っていく本を考えているのですが、やっぱり『細雪』かなァと思ってしまうオリジナリティのなさっ!


最後に、文章ではなく絵で解説を描いた異色の作品をお伝えして終わりましょう。京大を舞台にキテレツな主人公たちが跋扈する大学小説。

⑤森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)

 解説は、羽海野チカさん。なんとまあ、『ハチミツとクローバー』や『3月のライオン』の絵で、「黒髪の乙女」を描いてくれてるんですよ!? イメージぴったりすぎる! 表紙のイラストが素敵な『夜は短し歩けよ乙女』ですが、羽海野さんの解説の絵が可愛すぎて、キミ喧嘩売っとるやろっとツッコミたくなるくらい(もちろんどちらも素晴らしいです)。もしあなたがご覧になったことがなければ、ぜひ本屋さんで解説のページを開いてください。
 絶対に、そのまま文庫本をレジへ持ってゆきたくなりますから!

この連載について

初回を読む
わたしの咀嚼した本、味見して。

三宅香帆

人気連載【京大院生が選んだ「人生を狂わす」名著50】がリニューアルして再スタート! 書籍『人生を狂わす名著50』の著者であり、現役の京大院生で文学を研究し続ける24歳の三宅香帆が、食べて、咀嚼して、吐いた本の中身を紹介するブックガイドです。

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コメント

shi0r1nar1 え、待って、マジか、「夜は短し恋せよ乙女」買わなきゃ() 4日前 replyretweetfavorite

kuma_kuma これは読みたくなる良いレビュー! そして電子書籍では解説が多くの場合欠落しているという罠。 https://t.co/vGEBpw4aWj 4日前 replyretweetfavorite

feilong “22742” https://t.co/SGuTbYAe2K 5日前 replyretweetfavorite