第3回】清家 篤 氏(慶応義塾長)インタビュー

慶応義塾塾長の清家篤氏に雇用についてインタビューを行った。清家氏は2012年より社会保障制度改革国民会議会長も務めている。専門は労働経済学。生涯にわたって能力を磨き活用できる雇用制度を検討するべきではないかと、氏は提言する。

 せいけ・あつし/慶應義塾塾長
  2009年5月より現職。
  12年より社会保障制度改革国民会議会長。
  専門は労働経済学。

 

  労働経済学の見地に立てば、日本の仕事、職種が消滅しているとはいえない。というのも、日本の雇用は先進諸国の中では際立って高いパフォーマンスを示しているからだ。

 世界的に見ても日本の失業率は4.3%と低く、若年失業率も先進国平均の半分以下だ。いわゆる正社員(期間の定めのない常用雇用者)の数も一橋大学の神林龍氏の言うように1980年代と比較して遜色ない。今まさに雇用が消えてしまう、という表現は極端に過ぎるのではないだろうか。

 もっとも、労働者はただ雇用されていればいいわけではない。

 これから今後、日本の雇用は二つの課題に直面する。一つは、「付加価値競争時代の働き方」である。今後の産業の高度化に伴い、安いものを大量に生産する競争から、付加価値の高いものを生産する競争へ突入する。付加価値を生み出すのは人間なので、従来以上に、人材の育て方、育てた人材の活かし方といった人材戦略が企業の競争力を左右する。

 仕事のスキルにはFirm Specific Skill(企業特殊的熟練)とGeneral Skill(一般的熟練)があって、どちらも大事なスキルだ。本来ならば、これら両方で高度なスキルを持った人が、同一企業で働き続けられれば最も労働生産性は高くなる。企業は長く留まってくれる人材だから人的資源投資を十分に行えるし、個人も身に付けると会社で役立つと思い安心して教育訓練を受けられる。

 最悪なのは、能力を身に付けられなかった人が別の会社に行かなくてはならなくなるケースだ。処遇が下がる個人にとっても不幸だが、労働生産性が下がるという意味で社会にとっても望ましくない。

 もう一つの課題は、「少子高齢化への対応」だ。日本は世界に類を見ない少子高齢化を経験しつつある。2030年代には「3人に1人」が65歳以上になる。人口の「3分の1」にもなる人たちを特別扱いすることはできない。意思と能力のある人がいつまでも働き続けられる社会、すなわち生涯現役社会を作らなければならない。

 生涯現役社会を実現させるためには、賃金カーブの修正(40歳以降のカーブをよりフラット化する)は避けられない。そのときに問題になるのは、世帯主生活給(世帯主である男性1人が家族全員を養うために必要な賃金)で、今後は個人単位の生活給へと変わっていかざるを得ない。後半部分の賃金カーブをよりフラットにすることで、若年層への投資を犠牲にすることなく、高齢者雇用も円滑に進むようになる。

 政府の産業競争力会議では、解雇規制の緩和がテーマになっている。日本では解雇がやり難いのかどうかという議論はさておき、政府の成長戦略の柱が解雇規制の緩和だというのには少し違和感を覚える。労働の移動は成長産業に移動先があって初めて実現するもので、現在でも景気がよくなれば転職は増える。移動先が増えない中で解雇規制が緩和されても、労働者が成長産業に移動するとは思えない。

 これまで、労働者は雇用保障と引き換えに、企業には幅広い人事裁量権(採用者の決定、職種や勤務地の指定、残業の指示など)を認めることでバランスを取ってきた。企業の人事裁量権はそのままで、解雇規制の緩和で雇用保障が緩められるのはバランスを欠く。そうしたバランスも含め労使の合意の下で、雇用制度改革を進め、人材の育成とその能力の最大活用を図るべきだ。(談)

 

週刊ダイヤモンド

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”仕事消失時代”に生き残るビジネスマン 【1】~「仕事争奪戦」の幕開け

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ビジネスマンに“受難”の時代がやって来た。日本的雇用慣行のひずみ、スキルの陳腐化といった雇用激変の嵐が襲い、「今ある職場」「今ある職種」が消失しようとしている。最もその割を食うことになりそうなのがミドル世代なのだ。壮絶な「仕事争奪戦」...もっと読む

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