デビルイヤーは三割うまい

「自分の身体と一番長く付き合うのは、他人ではなく自分。自分を棺桶まで持っていけるのは、自分だけだから」。読めば必ず元気になる、作家・王谷晶さんの「女のカラダ」を考える爆走エッセイ、第11回。今回のテーマは「耳」。飾ったり、聞いたり、聞き分けたり、だけのための器官ではなく、もっと人間の存在理由の根本にかかわるその存在…! さて、その理由とは。

イヤー・オブ・ザ・コンプレックス

耳、比較的地味なパーツだなーという印象だ。ピアスやイヤリングで飾ったりはするけど、そのときも注目されるのはあくまでアクセサリーで、土台の耳って自分のも他人のもあまり意識して見たことがない。美容雑誌とかでも耳のお手入れTIPSというのはほぼ見たことがないな。せいぜい衛生面の注意くらいだ。

しかし思い起こすと以前にも書いたコンプレックス産業で悪魔の手先として働いていた時期、リサーチとして同業他社の美容整形外科のホームページをよく見ていたのだけど、そこには「耳の整形」というジャンルが確かに確立されていた。耳を大きくしたり小さくしたり、位置を変えたり角度を変えたりというけっこう大掛かりな手術も紹介されていた。高額な手術を希望するほど耳の形や位置で深く悩んでいる人がいることを、その時初めて知った。

ハッピー・ニューイヤー

ここで「耳の形なんてそんなに悩むことないよ~ほとんどの人は気にしてないって~」と言ってしまうのは簡単だ。心理面へのアプローチだけでコンプレックスを解消できるならそれは素晴らしいことだとも思う。でも、誰でも他人に理解されづらいコンプレックスのひとつやふたつ持っとるだろう。それが努力や化粧のテクニック等で解消できないものなら、なおさら悩みは深くなる。耳の形を気合や化粧で変えるのはたぶん無理だ。パテ盛りしたり特殊メイクみたいな方法を使えばできるかもしれないけど、それを出かけるたびにやってたら生活が破綻する。ならば整形手術という手段、理にかなってるなと思った。

私はそれで当人がハッピーになれるなら、整形という方法、耳に限らずアリアリだと考えている。お金とか手術のリスクの話なんてのもやる本人が誰より一番考えてるんだから、身内でもない外野がやいやい言うことではない。そりゃあまりにもうさんくさかったり健康を害しそうな方法を選ぼうとしてる人が近くに居たら止めるけど、「その人の身体はその人のもの」は私の信条のビリングトップでもあるので。「変わらなくても大丈夫」と「変えたいところは変えていい」を同時に言ってきたい。人生一回しかないんだし、付き合っててストレスになるものは、たとえ自分の身体でもどんどん変えたり切り離したり足したりしてよいのだ。自分の身体と一番長く付き合うのは、他人ではなく自分。自分を棺桶まで持っていけるのは、自分だけだから。

デビルイヤーは三割うまい

とは言うても耳のデフォルトのメイン機能は「聞くこと」なわけですが、それにただ音声で鼓膜を振動させる以外の意味が発生してしまうのがこのせちがらい社会生活。耳を傾ける、聞き分けの良し悪し、拝聴、小耳に挟む、耳年増。好きで聞いてる音楽もなぜか「アピール」「男の影響」とかいらんノイズがくっつけられたりして。非常にうるさい。

前にある版元の編集さんから「編集のアドバイスは三割くらいで聞いといてください」と言われたことがある。アドバイスというのは全部くそまじめに受け取っても成果物がいい感じに完成するわけではないのだと。他人の話を100%まるっと受け入れてしまっても駄目だし、一切聞かないのもまた塩梅が悪い。なので三割。これは編集と作家の間だけの話ではないと思う。あらゆる他人からのアドバイスは三割聞くか全無視くらいでちょうどよいと思う。

特に女の人にしか言われんやつ……彼氏作れ、子供産め、子供おろせ、子供おろすな、子供もっと産め、もう産むな、働け、働くな、働きつつ家事やれ、働きつつ家事やって介護してお前の実家の問題はお前が全部片付けろ、みたいな終わらない手旗信号ゲームみたいな話は、一切、マジのマジで一切、耳を貸す必要はない。

聞かずにスルーするのが無理な場合や立場もあるだろう。でも心の中のステージでは「ぜってえ聞かねえ~~~~~!!」というシャウトを聞かせてくれ。くっだらねーアドバイスをその叫びで掻き消して、顔で笑って背中で中指立ててギターやドラムセットを破壊しよう。パンクやロックというのは体制や既存の価値観への反抗から生まれる。抑圧が強ければ強いほどパンクスも強くなる。となれば現代日本において真のパンクロッカーたれるのは、女子だ。女の肉体を持っているもの、女の意識を持っているもの、どっちか決めとらんもの、そういうアタイたちこそがTHE・ロックンローラーだ。

当然ですが私のこの真面目なヨタ話も三割聞きでいいんです。三割も聞いていただけたら大感謝だ。三割うまい(※飲食チェーン店「ぎょうざの満洲」のキャッチフレーズ。意味はよくわからない)。

膿が聞こえる

この社会、年齢性別にかかわらず「聞き分けのいい子」は高い評価を与えられる。ワガママや不平不満を言わず、言われたことにきちんと頷きよく守るいい子。けど、大人しくひとの言うことをよくよく聞いて、それで結果自分が尊重されたりいい目にあったりしたことが、いったいぜんたいどれほどあるだろうか。「聞き分けのいい子」に高い評価を与える、そいつは誰だ。そいつは私より「偉い」のか。なんで私の人生に私より偉いやつがカットインしてくるんだ。私の人生の船長は私である。他人に舵を握らせたり指揮権を与えたりしてなるものか。

上司や先生、夫や親兄弟なんていう役職は、ただの肩書だ。それを持っているからって「目下」とみなした人間の人生をどうこうする権利なんかない。だから「目上」を自称するやつがくだらない言葉であなたの舵を奪おうとしたら、閉じよう。耳を。言い返せなくてもいい。その場をやりすごすために愛想笑いをしてもいい。でも聞き入れちゃだめ。心無い言葉に心を痛めすぎないで。諸君の人生に命令できるのは、諸君だけなのだから。(いよいよ本気のアジビラめいてきたな)

チューリップ・フィーバー

余談だがピアスというのは一度やると止まらなくなるタイプの人がいる。私もソレで、耳たぶだけに飽き足らず軟骨、眉、ボディ各所と範囲を広げ、二十歳ぐらいのときは上半身がパチンコ台みたいになっていた。それでいてパンクを聴いたりハードコアバンドを組むでもなく家で一人ゲーム(シムシティとか)をしたり詩を書いたりして地味ぃに過ごしていたので、今思うと余計に変態じみている。最近は片耳に数個付けてるだけの大人しいピアス愛好家になりましたが、頭はモヒカン刈りになり、そして相変わらず家で地味に過ごしています。どんなに見た目を派手にしても、魂は地味から逃れられないのをようやく理解した次第である。

すべて”女と女が主人公”の短編小説集

この連載について

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どうせカラダが目当てでしょ

王谷晶

脱・ライフハック! 脱・ヘルシー! ウェルカム非生産! 「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」女子なら一度はかけられる呪い。でもその美しさって本当は誰のためのもの? “女と女が主人公”の短編集『完璧じゃない、あたしたち』が...もっと読む

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コメント

micc1999 わしらがTHE・ロックンローラーじゃい → 5日前 replyretweetfavorite

moxcha "心の中のステージでは…"のくだりに涙が出るのはなぜだろうか。洗い流される気持ち。 6日前 replyretweetfavorite

Kawade_bungei 大好評連載! 今回のテーマは「耳」です→ 6日前 replyretweetfavorite

RcenterL あらゆる他人からのアドバイスは三割聞くか全無視くらいで https://t.co/JAt25R0rdV #スマートニュース 6日前 replyretweetfavorite