一億総ボケ社会を目指して

表現者が守るべき「ご機嫌さ」—久保ミツロウ×マキタスポーツ対談【第1回】

『モテキ』(講談社)、『アゲイン!!』(講談社)などのヒット作を世に送り出したマンガ家としてだけでなく、テレビやラジオのレギュラーなども持つ久保ミツロウさん。お笑い芸人に留まらず、ミュージシャンや役者としても活躍しているマキタスポーツさん。枠にとらわれることなく、様々な領域を横断的に活躍している二人の表現者が初めて対談を行いました。「ツッコミ」が蔓延している今の日本をぶった切る全三回。初回を無料公開です!

表現者は「ご機嫌さ」が大切

マキタスポーツ(以下、マキタ) 久保さんが『一億総ツッコミ時代』(星海社新書)を褒めてくださったという話を聞いて、一度お話をおうかがいしたかったんですよね。久保さんがマンガ家をやっている中で、いろいろなツッコミを受けてきたと思うんですが、やっぱりそういうのを気にされていたんですか?

一億総ツッコミ時代 (星海社新書)
一億総ツッコミ時代 (星海社新書)

久保ミツロウ(以下、久保) じつは去年から今年の頭までずーっと悩んでいたんです。マンガ家という本業とは別にラジオやテレビの仕事もするようになり、今まで拒否していた顔出しを始めたら、やっぱりインターネット上で外見とか性格とか批判されることが少なからず増えてきました。そういうことをしてくる人たちに対してどう立ち向かっていけばいいのかは頭で分かってはいても、冷静になれないことも多くて。

マキタ そうだったんですね。もう割り切ってるのかと思ってましたよ。

久保 いやいや、「そんなの相手にしなくていいんだよ!」って言われるだけなので誰に相談する訳でもなく身内に愚痴ってるだけでした。そんなとき、今も一緒にラジオをやってる能町みね子さんが『1億総ツッコミ時代』を読んだ話を聞いて。彼女はそれまで全然顔出ししてなかったのに、『1億総ツッコミ時代』を読んで、悩んでいたテレビ出演依頼の仕事を思い切って受けたそうです。ネットで評判だったので存在は知っていたんですけど、私も早く読んでみたくなってすぐ買いました。もう膝打ちまくりでしたね。多くの表現者が励まされる本だと思います!

マキタ ありがとうございます。今って、みんな表現に対して欲がある時代なんですよね。名前を出したり、ビジネスにしたりという領域に入らないまでも、とにかく表現はしたがっている時代。でも、ちょっとした言葉の間違いとか、そういうつまらないことにツッコミを入れて一喜一憂しているだけの人が多くて、あんまり面白くない。そういう気持ちから、あの本を書いたんです。

久保 何かにツッコミを入れるだけの人って、今の時代インターネットのせいで可視化された上、SNSで相手にダイレクトに言えるようになったから楽しくてしょうがないんだと思いますよ!

マキタ 表現で食っている人に対しての嫉妬から来ているんだと思います。僕の本に対しても、「お前たちは表現できるけど、僕たちには何もないんだから」という反応が凄くありました。そうやって言われてしまうと、表現者は後ろめたさを感じずに堂々と生きていくことが難しいですよ。

久保 でも、最初に「笑っていいとも!」に出演にしたときは、2ちゃんで何スレにもわたって外見だの話し方だのディスられましたが、後悔は全然なかったですね。「テレビに出て有名になりたい」という気持ちがあると、人に言われることが気になってしまうんだろうけど、純粋に「タモリさんに会いたい」っていう気持ちだけだったから、堂々と出演できた。

マキタ ああ、それは大事ですね。やっぱり、今の時代の表現者って、自らのご機嫌さを優先することが大切になるんです。

久保 ご機嫌さ、ですか。

マキタ 爆弾テロみたいな心境っていうのかな(笑)。見ている側も、そういう人に惹かれると思うんです。昔は「いいとも」にもよくわからないユニークな人がたくさん出てたんだけど、今はそういう人が入る隙間があまりない。だから久保さんみたいに他ジャンルの人間なのに純粋に「タモリさんに会いたい」っていう気持ちで出てる人に、見てる側は惹かれると思うんです。

久保 はいはい。

マキタ 以前は(ビート)たけしさんみたいにいろんなジャンルで活躍していた人たちがいたんですけど、今はそういう他ジャンルで活躍する機会が減ってしまっていますからね。

芸人が芸だけで食えないのはおかしい

久保 どうしてそういう隙間が減ってしまったんですかね?

マキタ テレビの文法に合わせた形でビジネスをしないといけないから。特に、吉本興業以外に所属している芸人には、芸を披露するための劇場がないので、テレビで食えるようにならないと、生活できないんです。

久保 なるほど……。いわゆる一発屋芸人と呼ばれる人たちが、大人数でまとめてパッケージングされるようになったのも、テレビ的な見せ方ですよね。彼らとしてはずっとやっているネタで、芸風を変えたわけでもないのに、テレビ用のラベルだけ張り替えて出ているような感じを受けます。

マキタ われせんべいみたいだよね(笑)。たぶん芸人の方は、自分たちが番組の作り手からわれせんべいってラベルを張られて袋でまとめ売りされる商品だとわかってやってるんですよ。でもね、テレビで見るとマンネリだなあって思う芸人でも、実際に劇場のライブなんかで見ると、凄く面白かったりする。要はテレビの画角に合わせて自分を売っているわけです。

久保 うわあ! 芸人の方が売られ方をわかっていて、それに合わせているんですね。

マキタ そうそう。まあ、今はあまりに芸人の数が増えてしまったから、この流れに芸人自体が抗うことは難しいですよね。コンビニのカップヌードルの棚みたいなもんです。

久保 また食べ物の例えが(笑)。

マキタ すでに一定の地位を築いている人達は、棚の下の方に置いてある定番商品。流れに合わせなくても、廃れていくことはない。でも、いわゆる一発屋芸人は、上の方に置いてある新商品といっしょ。中身もラベルもどんどん変えていかないと、興味を持ってもらえない。

久保 うーん、その流れは壊せないんですかね?

マキタ 難しいだろうね。今の流れの中でもそこそこおいしい思いができるから、変える必要もないと思ってる芸人もいるだろうし。

久保 マキタさんはどうなんですか?

マキタ 僕は、ラベルを張られて袋詰めされるのは嫌なんです。自分が何屋さんかというのは、自分自身で確立しているつもりです。戻ってくる場所を確保しないで片道切符で行っちゃうと、テレビの世界の中でいろんな存在にラベリングされちゃうからね。

久保 やっぱりテレビの世界って自分の意志を持って活動がしづらいというか、制作側の意志に左右されてしまうんですね。芸人さんにとって手強い存在ですよね。

マキタ テレビの人たちが生涯、面倒見てくれるわけじゃないですから。テレビに出ていても、自分が最低限確保しておくべき表現のコアな部分っていうのは持っていないといけないと思う。吉本の所属であれば劇場でライブをできるから、芸の質を担保できるけど、それ以外の芸人は芸自体を捨てるしかなくなることもありますから。ある事務所なんかは、積極的に芸を捨てさせてタレント化する戦略をとっているぐらいだし。

久保 ええ、そうなんですか!

マキタ テレビで取り上げられるまでは芸人としてネタをやらせるけど、一度ブレイクしたら、芸人としての活動は抑えさせるんですよ。

久保 だんだん芸をやらなくなる芸人さんが多いなとは思っていましたけど、あれは事務所がそうさせてたんですね。

マキタ 事務所なりの延命のさせ方ではあるんですよ。テレビのように、スピードがあって全国に広がる世界で芸を続けさせていたら、すぐに消耗してしまう。テレビって、芸をするための場所ではないんです。だから、僕はテレビに頼らないビジネスモデルを作っていきたい。そもそも芸だけで食っていけるようなビジネスモデルがないのが、おかしいんですよ。

久保 確かに、芸人なのに芸で食っていくことができない状況はおかしい。

マキタ ラーメンズみたいに、舞台で食っている人も少数はいるんです。他に活動の場があるとテレビに出ているときも媚びる必要がないから、かっこいいですよね。もちろんみんながみんなラーメンズみたいになればいいってわけではないんだけど。僕はスポイルされたくないから、テレビとは別のところに活躍の場が増えてほしいと思っています。

みんな何かをわかりたがってるからツッコミをする

久保 そういう中で芸人のみなさんが一生懸命やっているのに、私みたいに別の仕事で身を立てている人間がちょこっとテレビに出たりするのって、ムカつくんじゃないかと思ったりするんです。

マキタ いやいや、面白い人がテレビに出ればいいんです。久保さんのように芸人以外の分野からポンと出てきた人の方が、テレビの画角におさまらない生々しさがあって面白い。僕、最近思うのは、林真理子って凄かったんだなあということなんですよ。

久保 ああ、林さんもテレビによく出ていましたよね。

マキタ あの人も久保さんのようにテレビの世界にポンと出ちゃって、外見のこととかいろいろ言われてました。でも、彼女はそんなことおかまいなしで、ジャンルレスに自分のやりたいことをやりまくった。ヌード写真集まで出してたでしょ。久保さんは林真理子みたいになればいいんじゃないですか?

久保 私はヌードとか撮らないですから(笑)。

マキタ ははは(笑)。ヌードはおいておいても、林さんは欲望の総量が本当に凄いんですよ。だから、世間の目よりも、自分のご機嫌さを優先することができたわけです。いろんなジャンルを横歩きしながら、本業として物書きっていう体裁は崩さずに、自分の権威を高めていった。

久保 やっぱりジャンルレスに活躍する上で、自分が何屋さんかってことは確立していないと、誰もその人の発言に耳を傾けてくれないと思うんです。林真理子さんが物書きを続けていたように、私もテレビやラジオの仕事がいくら増えても、週刊でマンガを描くという本業は一番優先させたいです。

マキタ 納期や〆切がある商品の世界で表現している人には、他の人にない説得力がありますよね。バーチャルの世界の匿名の批評家たちには背負っているものがないから、説得力ももてないんです。

久保 ツッコミって親愛を込めた表現にも使われますからね。Twitterでちょっとしたボヤキを書くだけで「久保ミツロウは病んでる」なんて言われることもあります。親しみを込めて病んでる認定したがる人が多いのにもうんざりしますが、何かを認定することの判断が軽すぎると思います。もちろん実際に対面して話したらそんなこと言わないんでしょうけど、ネットだと発言が軽くなってしまっているというか。

マキタ 誰か有名人が死ぬと、すぐに「ご冥福をお祈り申し上げます」とかね。死者を悼む気持ちはわかるけど、本当にその人のことを好きだったのかと思ってしまう。

久保 みんな何かをわかりたがっているんですよね。芸人さんにしろ、マンガにしろ必ずピークを認定しますし。「4巻までは良かったけど、5巻以降は下り坂」とか、「あの芸人はもう終わった」とか。なんでみんな、勝手に人の表現の幅を決めてしまうのか、不思議でしょうがないんです。面白くないなら「面白くない。もう読まない。」だけでいいのに!

マキタ 「オワコン」という言葉が、そういった風潮を象徴していますよね。それもこれも、インターネットの発展によって、ツッコミが蔓延してしまったから。そんなツッコミ社会を、もっとボケの方に振れさせたいんですよ。

(中編は6月28日(金)更新予定)

ケイクス

この連載について

一億総ボケ社会を目指して

マキタスポーツ /久保ミツロウ /cakes編集部

『モテキ』(講談社)、『アゲイン!!』(講談社)などのヒット作を世に送り出したマンガ家としてだけでなく、テレビやラジオのレギュラ―なども持つ久保ミツロウさん。お笑い芸人に留まらず、ミュージシャンや役者としても活躍しているマキタスポーツ...もっと読む

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コメント

2323suko マキタスポーツさんは、ずっと格好いいなぁ 「「オワコン」という言葉が、そういった風潮を象徴していますよね。それもこれもインターネットの発展によって、ツッコミが蔓延してしまったから。そんなツッコミ社会をもっとボケの方に振れさせたい」 https://t.co/4vELIrlqty 11ヶ月前 replyretweetfavorite

ayayy18 久保ミツロウ先生が出ている…! 2年以上前 replyretweetfavorite

mars_le 本来であれば好きな部類の人のハズなのに、なんか好きじゃない理由がよく分かった。ネットでディスられることを気にしながら卑屈なことを人前で話すからだったんだ。久保ミツロウ…。卑屈で人前に出るなら卑屈に誇りを持って欲しいんだ。私は。 https://t.co/8r3Xe9rwp0 2年以上前 replyretweetfavorite

hikari8282 久保ミツロウ×マキタスポーツ対談【第1回】 cakes編集部 @cakes_PR https://t.co/duGm9rs40y 3年以上前 replyretweetfavorite