男友だちが恋愛対象に変わるとき

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回のテーマは「幼なじみや友達が恋愛対象に変化するとき」です。ずっと一緒に育った幼なじみに恋に落ちる心理とはどのようなものなのでしょうか?

「僕は、ずっと一緒に育った幼なじみと結婚するのが究極の幸せだと思う」

これは、ずいぶん昔に某ヴィジュアル系バンドのボーカルがつぶやいた一言だ。

彼はカリスマ的な人気を誇っていたので、周囲にはたくさんの女性達がいたし、たくさんの浮名を流してきたのは見え見えだった。そのくせ彼は純粋な愛の歌を作っては歌い、作りまくっては歌いまくって、合間に幼なじみではない素敵な女性達とやりまくっていただろう。

いや別に、彼をディスっているわけではなくて、彼の心には延々と幼なじみの女性が(たとえ架空だとしても)生きていたのだろう、と思うと実に感慨深いのだ。心と身体の欲求は別物だからしかたない。彼にとって幼なじみとは、究極の理想郷だったのだろう。

恋愛対象は最初から恋愛対象

私自身、幼なじみと恋に落ちたことはないし(ファーストキスは幼なじみとだった。4歳の頃だ。少女漫画みたいでしょう)、男友達が恋愛対象に変わったこともない。それこそ少女漫画だと、「今まで何とも思っていなかった男友達が急に男に見えてきた。ドッキドキ」みたいなエピソードがあったりするけれど、あれはどういった心境の変化なのだろう。

前述したビジュアル系バンドのボーカルのように、長年描いてきた理想郷が、たまたま美しく成長した幼なじみにピッタリあてはまったのだろうか。私の場合、恋愛対象は最初から恋愛対象である。恋愛対象だった人が片思いのまま友人になってしまったことはあるが、それでもただの男友達ではない。私の中で恋心は残ってしまっている。ただ、化石になってしまっただけで。

ごく稀だが、相手にとって私が単なる女友達だったのに、いきなり「やべー、おまえ女だった!」みたいに告白されたことはある。長年そばにいて、すっぴんも泣き顔も知られていて、雑魚寝した時の歯ぎしりも聞かれていて、「鶏肉って歯に挟まるんだよねー」なんてケンタッキーフライドチキンの店内で爪楊枝を使う仕草まで見られているのに。もしかしたら私の歯ぎしりってかなりいいメロディを奏でるのだろうか? なんて、爪楊枝でシーハーしながら首を傾げてしまう。

すっぴんや泣き顔はともかく、歯ぎしりや爪楊枝でシーハーなどは、恋愛対象になるきっかけとしては異質だ。それこそ「女友達の足の小指に爪がなかったのを発見して、恋に落ちた」とか「女友達の首すじのほくろに長い毛が何本も生えていて、ときめいた」など、癖(へき)というかフェチとはまた違った趣である。

日々あたりまえに視界に入る容姿や慣れ親しんでいる声音や口調、動作などが突然輝きはじめるのは、どういう心移りなのだろう。数年ぶりに会った幼なじみが美しく、あるいはかっこよく変貌、という話ではなく、家も近所で進学した学校も高校まで同じ、大学は違うけれどやはり同じ都内や県内で、飼い犬の散歩コースまで同じ、といった具合で離れている期間がまったくないのに恋に飛び火して結婚という展開は、地味ながらドラマチックだ。さすがビジュアル系バンドのボーカルが美学を見出すだけはある。

「幼なじみに落ち着くって、つまんなくない?」
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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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コメント

tokuyoshikeiji .。oO(この知るかよ的注釈が余計なんだよね〜すかも昔のアイドルが言うようなイヌレヴェルの(失笑〜限らずだけどちょいちょい地味ィ〜にプチ自慢挟み込んでくるから👃に付く=З 2年弱前 replyretweetfavorite