私が小学生の頃から高校生あたりまで、女友達と交わした議論の中でポピュラーだったのが、
「友人の彼を奪うこと。またはそれに付随するバトルについて」
というお題だ。私は常々、
「友人の彼を好きになること自体がもう言語道断だし、あわよくば付き合っちゃおうなんて、もともと友人ではないのだ」
とか、
「友人ならば、彼を紹介された時点で自分の心に結界を張るはずだし、たとえ身悶えするほど好みだとしても、己の欲を律するはずだ」
など、偉そうに力説していた。
それなのに、私自身、友人ではないが近しい人に彼を奪われた経験と(正確には二股をかけられた)、友人の彼を奪ってしまった経験がある。
あっさりと友人の彼を奪ってしまった理由
二股をかけられたあらましは今回は伏せるとして、小学生から高校生までジャンヌ・ダルクばりの確固たる正義を振りかざしていた私が、あっさりと友人の彼を奪ってしまったのはなぜなのか。
そもそも私が友人(仮にA子としておこう)に彼を紹介されたのは、私が私の近しい人に私の彼を奪われてから、1年後くらいである。私の傷はまだ瘡蓋にもなっておらず、膿と血液がじゅくじゅくしている状態だったので、男女関係にかなりの不信感を抱いていた。なので友人とはいえよその女に、いとも簡単に自分の大切な彼を紹介するA子の神経をまず疑った。
これは当時の私が若干病んでいたせいもあるのだが、A子の思惑として「彼はこの人(私)には絶対に惹かれないだろう」という驕りが感じられたのだ。つまり「私は女としてこの人(私)より格段も上だから」というマウンティングだ。まさかそんなはずないよね、A子の性格はそんなに悪くないよ(ていうか、私の性格がそんなに悪いのかも。いや、病んでいただけだよね)、と思いなおそうとしたが、いったん思ったことを思いなおすのは無理である。
A子の彼=仮にYとしておこう、Yはヒーラーというかセラピストのような仕事をしていた。「一度会ってみてよ」とA子が自慢げに言うものだから、試しに会ってみた。正直に言おう、「ヒーラーと付き合っている私ってすごいでしょう。いつでも見えない高次元の世界と繋がれるの、Yを通じて」というA子からのマウンティングを受けた気がしたのだ。どれだけ病んでいたのだろうか、当時の私。
売られたケンカならぬ感じちゃったマウンティングは味わい尽くすのが礼儀と言わんばかりに、私は「うん、私、最近病んでいるから(病んでいたのは自覚していた)、ヒーラーのYさんに会ってみたい」と尻尾を振ってA子宅に赴いた。YとA子は同棲していたのである。A子は「せっかくだから、Yのヒーリングの施術を受けてみたら?」と提案し、私は快諾した。
彼と部屋にふたりきりになり……
Yの施術室は自宅の一室だったので、余計な“気”が介入しないよう、A子はYと私をふたりきりにした。「終わったら連絡してね」とYに言付け、にこやかに散歩に出て行った。Yの第一印象は、普通の愛想のいい中年男性だ。それ以上でもそれ以下でもない。施術室には妙なグッズもないし、曼荼羅や護符が貼ってあるわけでもない。よくよく見渡せば、仏教や民間医療や精神世界系の書籍が並んでいるくらいだ。スピリチュアルというものは、人によって見解が異なるのでここではふれないでおく。私個人は霊感体質ではないし、どちらかというと鈍いほうなので、Yからヒーリングをされても、癒されたとかスッキリしたとか、よくある変化は皆無だった。
ていうか、これがヒーリング? な印象だったのだ。Yは私の手を握り、じっと見つめ、「良くないものが憑いているね。憑きやすい体質だね」などと諭し、手のひらをほぐしたり、撫でたりした。深呼吸を数回するように指示し、「悪いものを吐くように、思いきり吐いて」と限界まで息を吐かせ、背中をさする。胡散臭いな、と頭の片隅で訝りつつも、実際、気持ちはラクになった。A子の紹介だからと料金はまけてくれて(2万円だった。これが高いのか安いのかわからない)、数回通うように言われた。
ややあってA子が帰宅し、「どうだった?」などとまた上から目線で私に聞くものだから、「うん、すごくよかった。ありがとう」と私はA子を崇めるように礼を言った。
病んでいた私は、無意識に可哀想ぶっていたのではないだろうか。Yは、そんな私の“気”とやらを察知したのではないか。数回通ううち、どう考えてもこれはヒーリングじゃないよな、という行為をされた。一歩間違えばセクハラ、痴漢レベルだ。
詳細は記さないが、やられた方が嫌じゃなければセクハラでも痴漢でもない。私はそっち方面も鈍いので、かなりのレベルで身体をまさぐられるまで「これはきっと新手のヒーリングなのだ」と勝手に納得し、されるがままになっていた。身体の不干渉ならぬ心の不干渉ぶりにYもあきれたのか、やっと「A子には内緒で付き合おう」と告白してきた。さすがに私も「これも新手のヒーリングなの? 告白ヒーリング?」とは思わなかった。私の手痛い失恋から約2年が経過し、傷はすっかり癒えていた。
やはり私はマウンティングされていた?
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