柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第30回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ファミコン時代の名作「UGOコレクション」全十本の移植という大きな依頼を受ける。ただ、実現には大きな障害があった。それは最後のゲーム「Aホークツイン」の権利だけを買い取った、開発者の赤瀬裕吾が行方不明であること。二人はどうにか赤瀬を見つけ出すが、赤瀬は移植許可の交換条件に、「完璧なAホークツイン」の復元を提示し……。
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 翌日の午前中、灰江田は山崎に連絡を取り、Aホークツインのロムを複数借りた。そして、倉庫になっている四、五階から、ブラウン管テレビやファミコン本体を運んで、ドットイートのすべての席で、ゲームができるようにした。
「おい、ナナ。準備はしてやったぞ。あとは、おまえの方で上手くやってくれ」
「はーい」
 準備が整った頃には、十二時近くになっていた。昼飯ついでにやって来た常連客たちで、店は満たされている。ナナは、倉庫から出した甲冑(かっちゅう)を着込んでいる。昔、鬼瓦が販促用に作ったプラスチック製のものだ。ナナは両手を前に出して、鬼瓦の日本刀を床に突き、第一声を上げた。
「みなの者、いまからAホークツイン祭りを開催する」
 戦国武将風の宣言だ。ナナの前に集まった古強者たちは、突如始まったイベントに鬨(とき)の声を上げた。
「協力してくれた者は、コーヒーおかわり無料。見事、元の姿を見極めた者は、コーヒーチケットを一冊進呈。みなの者、首級を挙げよ」
 常連客たちはビルを震わせる声でこたえる。
「これは、思考力が問われる企画です。つまり私のためのものですね」
 パズルゲームが得意な猪股が、英国紳士のように優雅にカップを持ちながら言う。
「最後にものを言うのは体力だよ体力。体を鍛えていない連中は、途中で脱落するぜ」
 鹿本が筋肉を盛り上がらせて、自身の力を誇示する。
「いやいや、シューティングゲームは僕の得意分野ですよ。僕の右手には、高橋名人が乗り移っていますから」
 高蝶がテーブルに向かって十六連射を始める。
「デバッグとは違う難しさがありますね」
 専門学校時代に、デバッグのバイトをしていたという酒見が、緊張した面持ちで言う。ゲームの紹介記事も手掛ける花井や、ゲームのコミカライズの仕事が多い大月も、やる気を見せている。
 ナナは店の者たちに、祭りの詳細を下知していく。常連客たちは出陣前の武将の面持ちで契約書にサインした。そして雄叫びを上げながらAホークツインを始めた。彼らは、件(くだん)のゲームに欠けていると思うことを、どんどん紙に書いていく。電子音飛び交う戦場に、ナナも嬉々として加わる。
「さて、俺は俺の仕事をするか」
 灰江田は、コーヒーとサンドイッチを持ち、フェードアウトするように事務所に移動する。コーギーは電子音に囲まれた方が落ち着くのか一階に残った。灰江田は、ノートパソコンの画面をにらんで、当時のテストプレイ要員の探索を開始した。
 あまり実りがないまま夜になった。まだ初日だからと、自分の心を慰める。灰江田は気分転換のために一階に下りてコーヒーを頼む。ちょうどそのタイミングで、仕事を終えた静枝が、婚約者の三田村と一緒にやって来た。なるほど、静枝の婚約者は、こういう人物なのか。丸くておっとりしており、人間というよりはテディベアに近い。
「私は、白野さんを手伝います。守くんは、七島さんを手伝って」
「分かりました。僕は、それほどゲームは得意じゃないけど、がんばります」
 てきぱきとした声と穏やかな声。この二人の関係が、透けて見える気がした。どうやら三田村は、赤瀬とは正反対の性格のようだ。静枝は、自分に欠けたものを持つ相手を選んだのではないかと感じた。
 三田村はテーブル席に座り、コントローラーを手にする。手元にはシャープペンシルを置き、気づいたことをメモできるようにする。ゲームは本当に苦手そうだった。それでも婚約者の父親を結婚式に呼ぶために、懸命にメモを積み重ねていった。

 Aホークツイン完全版の探索二日目。コーギーは、朝からドットイートに行き、一番奥のテーブルに陣取った。常連客がまだいない店内は電子音がなく、化石が並んだミュージアムのようだ。灰江田は事務所にこもっている。静枝や三田村は会社に行っている。静かな店内で、コーギーはノートパソコンをにらんだ。
 灰江田やナナの作戦とは別にプログラムを解析する。コーギーに静枝を加えた二人は、正面からAホークツインに挑んでいる。気になる点があった。Aホークツインのプログラムには、使われていない領域が多数存在する。処理をたどっていくと条件分岐で到達しない部分がある。この場所に、森下に削られた仕様が残されていると、コーギーは考えた。
 謎が隠されていることは推測できても、元々どのような処理だったのか、そしてどのように呼び出されていたのかまでは分からない。その謎を明らかにするために、コーギーは赤瀬の過去のゲームのプログラムを精査する。
 赤瀬は、UGOブランド十本のプログラムをすべて自分で書いた。その際、毎回ゼロから開発していたとは思えない。過去のノウハウを継承するために、それ以前のものを土台にして新しいものを作成したはずだ。それならば過去のゲームからAホークツインの改変前のプログラムを想像できるのではないか。美術品を修復するように、元のゲームを再現できるのではないか。
 しかし、それは困難な作業である。絵画のように、ぱっと見て、すべてを俯瞰できるものではない。プログラムは細部を細かく見ていくことは簡単だが、全体を見渡すことは難しい。数千行、数万行。そのように増えていくプログラムは、画面に収まりきらない。それらをスクロールして確かめながら、複雑に参照される全体像を把握するのは人間の脳には負担になる。
 コーギーは、頭の中に次々とプログラムを流し込んでいく。直感のレベルで差異を認識できるところまで脳を適応させる。なんとなく共通点が多くあることは理解できた。しかし、それ以上となると、人の能力の限界を超える。
「よし」

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柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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ruten cakes『レトロゲームファクトリー』30話公開中。レトロゲーム&ミステリ&お仕事小説です。読んで下さいね。最新30話→ https://t.co/ZDb7Dzu056 連載まとめ→ https://t.co/PKcROjLdhq… https://t.co/p5B77cLrts 5ヶ月前 replyretweetfavorite

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