日本に住んでいても、いまでは世界各国の料理を食べることができます。中華、フレンチ、イタリアン、タイ料理といろんなものを食べることができるのはありがたいことですね。
最近は、たくさんの中国人観光客が日本に来ています。彼らの目当てのひとつはラーメンです。「あれっラーメンは中華料理じゃない?」と思った人、いませんか? 中国には、もちろん汁が入っている麺はありますが、それは日本で食べられているラーメンとは違うものです。日本で独自の進化を遂げたのです。 こういった例っていろいろありますよね。例えば天ぷらは、もともとはポルトガル料理だという話も、聞いたことあると思います。16世紀に鉄砲と一緒に、天ぷらのもととなる料理が伝来したと言われています。
日本人は、こういったことをするのが好きですね。イタリアのパスタを、たらこスパゲティにしたり、ジェノベーゼソースを大葉で作ったりと、アレンジしちゃいます。ベーグルは、もともとはユダヤ人の食べ物ですが、ヨモギや野沢菜を練り込んだものが、日本で食べられています。
このように、ある国や民族の料理が別の国で食べられるようになると、もともとの料理から独自の進化を遂げることがあります。これを脱エスニック化と言います。これは日本だけで起こっているわけではありません。例えば、アメリカ人はピザが大好きですが、彼らが食べているピザは、もともとのイタリアのピザとは全く違ったものに進化しています。
脱エスニック化した料理は、時間が経つと複雑な変貌を遂げます。例えば担々麺。最近、「汁なし担々麺」ってありますよね。ぐるりと一回りした面白い脱エスニック化です。 四川省発祥の担々麺には、そもそも汁がありませんでした。これを四川省出身の料理人陳建民さんが、汁のあるものに変えたと言われています。陳建民さんは日本に四川料理を広めたことでよく知られた人です。息子は、『料理の鉄人』で有名な陳建一さんですね。
私たちが知る担々麺は汁があるものです。しかし最近になって、「汁なし担々麺」というものが売られるようになっています。そもそも担々麺というのは、汁がないのに、わざわざ「汁なし担々麺」と呼ぶのは、「頭痛が痛い」とか「大きな巨人」みたいなトートロジー(同語反復)のようで面白いです。
脱エスニック化に関連する言葉として、ピザ効果というものがあります。さっきも言った通りピザというのは、イタリア料理ですが、アメリカで独自の進化を遂げています。そのアメリカ流にアレンジしたピザが逆輸入されてイタリアでも食べられているそうです。このようにブーメランのように、脱エスニック化した料理が「帰国」して定着することをピザ効果と言うのです。
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