「やっぱり思い込みがあってわからないみたいですね。宮前さんは、顧客が〝価格〟と〝品揃え〟だけを重視すると思い込んでいませんか? 街の電器屋さんは、それ以外のメリットを重視する顧客を取り込んだわけです。街の電器屋さんが提供できて、家電量販店が提供できないものを考えると、答えが見えてきます」
「街の電器屋さんが提供できて、家電量販店が提供できないもの——」
久美は実家が引っ越しをしたときのことを思い出した。新居で照明器具が壊れて明かりがつかないことがあった。久美の家族はこういうことにはまったく弱い。家電量販店に電話しても、「サポート対象外」との冷たい返事だった。そこで、ダメモトで家から5分ほどのところにある近所の電器屋に電話をしたら、「お持ちいただければ、
すぐに修理します」との返事があり、照明器具を持っていったところ、本当に5分でハンダ付けして直してくれた。
「地元密着型の手厚いサービスですか?」
久美はしばらく考えた末に答えた。
「そうです。それが家電量販店との差別化のポイントです。では、街の電器屋さんがターゲットとすべきお客さんは、誰でしょうか?」
ここでまた久美は考え込む。(家電量販店よりも値段が多少高くても気にしないということは、お金にはそんなに困っていないはずね。逆にたくさん商品がありすぎると、選べなくて困ってしまうのかな。それよりも、困ったときに助けに来てくれることのほうが重要だということは……)ここまで考えたときに久美の脳裏に浮かんだのは両親の顔だった。(これだ!)と久美は悟った。
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