満員電車は脱毛エリア
「お前、ムダ」いきなりそんなことを面と向かって言われたらどんな気持ちになるだろうか。ショック、悲しみ、怒り……さまざまな辛い感情が湧き上がってくるはず。しかしこの世には議論の余地なくゼロ・トレランスでムダ呼ばわりされてしまっている悲しきものどもがいる。
毛だ。
正確には、髪の毛と睫毛以外の体毛である。
何をもってしてムダと呼ばれているのかというとその理由は「審美」一択。鼻毛とか耳毛なんかは本当は無いとだいぶ困る毛だけど、それでもちょっとでも持ち場から顔を覗かせると速攻でデストロイされてしまう。
ムダ毛と呼ばれる毛たちは、社会から大資本の力でもって全力で排除されんとしている。都市部の電車内など、もう目をつぶって乗らない限り絶対に脱毛サロンの広告が目に入る仕組みになっている。春は夏前に毛を処理しろと言い、夏はまだ間に合うから毛を処理しろと言い、秋はキャンペーン中だから毛を処理しろと言い、冬は厚着の今のうちに毛を処理しろとひっきりなしにアピールしてくる。毛の無い肌は「たしなみ」を越えて「常識」であるかのような刷り込み攻勢だ。
特に女子は、髪と睫毛以外の毛は元から無いかのように処理しふるまうのが「ふつう」とされている。
全脱はグッド・イナフ
そう。「ふつう」。金と手間暇かけてつるつるピカピカすべすべにしても、プラスではなくゼロ地点扱いになるという文字通り不毛なお手入れ。それが毛まわりの処理。そのくせ剃り残しの指毛の一本でも他人に発見されようなもんならダメージは甚大だ。面と向かって物笑いにされる程度ならまだマシな方で、本人のいないところで酒の肴にされ「中指じんじろげ大将」みたいな不名誉なあだ名を知らずつけられてしまったりするパターンもある。女子と毛の組み合わせは、ことほどさようにタブー視され続けている。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。