無理、無茶、無駄毛

〈毛が生えることこそが「ふつう」なのだ。指毛も腕毛も鼻毛も耳毛も乳毛もスネ毛もワキ毛もヘソ毛もケツ毛もヒゲも生える〉「女体の神秘」なる呪いを軽いタッチで思う存分引き剥がす、作家・王谷晶さんの連載、早くも第10回目! 今回のテーマは「毛」。今年の暑すぎた夏、屋内に引きこもる王谷さんが、人生初めて自らの「毛」と真摯に向き合い、気づいたこととは…。

満員電車は脱毛エリア

「お前、ムダ」いきなりそんなことを面と向かって言われたらどんな気持ちになるだろうか。ショック、悲しみ、怒り……さまざまな辛い感情が湧き上がってくるはず。しかしこの世には議論の余地なくゼロ・トレランスでムダ呼ばわりされてしまっている悲しきものどもがいる。

毛だ。

正確には、髪の毛と睫毛以外の体毛である。

何をもってしてムダと呼ばれているのかというとその理由は「審美」一択。鼻毛とか耳毛なんかは本当は無いとだいぶ困る毛だけど、それでもちょっとでも持ち場から顔を覗かせると速攻でデストロイされてしまう。

ムダ毛と呼ばれる毛たちは、社会から大資本の力でもって全力で排除されんとしている。都市部の電車内など、もう目をつぶって乗らない限り絶対に脱毛サロンの広告が目に入る仕組みになっている。春は夏前に毛を処理しろと言い、夏はまだ間に合うから毛を処理しろと言い、秋はキャンペーン中だから毛を処理しろと言い、冬は厚着の今のうちに毛を処理しろとひっきりなしにアピールしてくる。毛の無い肌は「たしなみ」を越えて「常識」であるかのような刷り込み攻勢だ。

特に女子は、髪と睫毛以外の毛は元から無いかのように処理しふるまうのが「ふつう」とされている。

全脱はグッド・イナフ

そう。「ふつう」。金と手間暇かけてつるつるピカピカすべすべにしても、プラスではなくゼロ地点扱いになるという文字通り不毛なお手入れ。それが毛まわりの処理。そのくせ剃り残しの指毛の一本でも他人に発見されようなもんならダメージは甚大だ。面と向かって物笑いにされる程度ならまだマシな方で、本人のいないところで酒の肴にされ「中指じんじろげ大将」みたいな不名誉なあだ名を知らずつけられてしまったりするパターンもある。女子と毛の組み合わせは、ことほどさようにタブー視され続けている。

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どうせカラダが目当てでしょ

王谷晶

脱・ライフハック! 脱・ヘルシー! ウェルカム非生産! 「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」女子なら一度はかけられる呪い。でもその美しさって本当は誰のためのもの? “女と女が主人公”の短編集『完璧じゃない、あたしたち』が...もっと読む

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コメント

tori7810 連載明日また更新されます! こちらの最新回は明日の朝10時前くらいまでは無料で全文読めます。 約1年前 replyretweetfavorite

chemokiwo |王谷晶 @tori7810 |どうせカラダが目当てでしょ ああ、ほんと、今回も面白い! https://t.co/NDDAC5LvcY 約1年前 replyretweetfavorite

notkitasima 女だって指毛も鼻毛も耳毛も乳毛もスネ毛もケツ毛も生えるのだ https://t.co/yta31XvzKI #スマートニュース いつくしみと言うワードでこの記事の才能を感じた(コナミ) 約1年前 replyretweetfavorite

Kawade_bungei 王谷晶さんの「女体」連載、更新されました!今回のテーマは「毛」です!→ 約1年前 replyretweetfavorite