そもそも、脳性まひって、なんだろう?
——連載開始、おめでとうございます!「千夏ちゃんが行く」(飛鳥新社)の刊行から3年が経ちました。読者の中には知っている方もいるかと思いますが、はじめにお聞きしたいことがあります。脳性まひというのは、どのような障害なのでしょうか。
福本千夏(以下、福本) 脳性麻痺は、命の誕生前後に、知らぬ間に脳に損傷を受け、手足にまひが残った症状を言います。予期も予防も治療もできません。何絶望じゃんっって? まあきつくないと言えば嘘になるかな。 でもでも、全身の毛に白いものが混ざる今も、痛い痛いと言いつつ、時に機嫌よく、時に「亡き夫のお迎え」を少し待ちつつ生きてますからね。症状も千差万別・一人一人脳が違うわけだから、脳性麻痺と言っても人それぞれです。 ちなみに、私はアテトーゼ型です。と言われたとて、ピンと来ないでしょ。 うーん。動きはゾンビ的かな(あっ、ほかの美しい脳性麻痺の方、お気を悪くされたら本当にごめんなさいね。あくまでも私の動きを手っ取り早く表現しただけですので) 。以前、テレビで「ゾンビが来たら…」という番組があって「この動き私みたいだわーひょっとして、私、参考にされちゃった?」なんて思ったものですから。そのくらい私は不思議な動きなんだって57歳にして思ってます。
みんな気を使って、見て見ぬふりをしたり、微妙な笑顔をくれたりします。こんな時なんだか気持ちがくすぐったいです。まあ「ゾンビだー」って逃げられるのもがショックな感じですが。
でアテトーゼって…これまた説明がしにくいのですが。まあ、自分の気持ちに逆らうあまのじゃくな大きな虫が、頭の中に住み着いている。そんな感じです。自分が体の力を抜きたいと思えば思うほど体に力が入ってしまう。体と心と頭が24時間バラバラに動いてしまう。
顔やのどやあごにもダメージを与えて、声を出しにくくする。あっ、私のあまのじゃくな大きな虫は、寒いとますます元気になり、体をますますかたまらせ、息をするのも大変にします。 虫が苦手な私ですが、この虫だけは、あまり嫌わずに面白がって付き合わないと……。姿を出したら意外に可愛かったりして。
——そうなんですか。カフカの「変身」を思い出しました。脳性まひについて、よくわかりました。アテトーゼ型など、さまざまな型があるんですね。脳性まひと言ってもいろいろですし、障害者と一口にいっても多種多様ですよね。さて、今作は人と関わるなかで考えたことを語る内容です。波乱万丈な半生記的な前作とは大きく異なる印象です。
福本 前作は、家族を失くした悲しみを乗り越えるためのもの。今回はそこから社会の中でどう生きて来たか。やっぱり、働きだしたことが大きかったかな。健常者や障害者に関係なくたくさんの人と関わることになって、ムッとすることや、「そういう考えもあるんや!」とムムッて心が動く毎日。アラフィフにしてそんな経験をする中で、なんでもちゃんと他人にわかってもらうためには、相手のことも想像して歩み寄って話さなあかんって。これからは障害者の主張・愚痴だけじゃ生きていけないって感じた。とはいえ身も心も脳性まひなんで健常者の思いに立つことはできない。でも、私の「!」や「?」は新人社会人のこれだったりするのかなって、テレビドラマ観てて思っちゃったり(笑)
——そうですか。人と関わることが今作のポイントなんですね。では多くの人と関わって、どんなことがありましたか? 具体的に教えてください。
福本 私は2012年から、障害者を支援するNPO法人で働きだした。団体で制作した障害者防災の本やDVDの販売管理と寄付者のおたずね事に応えるのが主な仕事。
学校や事業所からたまにお声がかかることもあるけど、日頃は地味な仕事。みなさんアマゾンで商品管理や納品書を書いている人の姿なんて日頃想像しないでしょ。私、街に出たらかなり人の目を引くんだけど、こんな私が影武者みたいなお仕事なんてだれも思わないよな。ってコツコツさせてもらえる事が楽しくてね……。
一度も面識がないお客様から「福本さん。納品お願いします」や「最近元気ですか」ってコメント頂いたりすると、私の知らないところで私を見てくれている人がいるんだ。続けてきてよかったって思うしね。
出勤前に寄るコンビニ、食べやすい大きさにカッティングしてくれる喫茶店、電車でスムーズに乗り降りさせてくれる駅員さん、決まった時間に来る郵便局の集荷のお兄さん、「もう仕事やめたい……」っていう帰りに「ちなっちゃん」って小学生たちが手を振ってくれたりね。働くって、同僚とか職場環境だけじゃない、いろんな人と関わる機会をくれるものなんだなって。大げさだけど社会とつながってる感じがしてね。
「ふつうって、なんだろう?」なんて、思ったことない
——実は今作は、タイトルを何度も変更しています。その度にどう思いましたか?
福本 最初は「ふつうって、なんだろう?」だったね(笑)正直私は、「そんな疑問は持ったことない」って思った。
——率直な意見をありがとうございます。編集サイドも「障害者の立場で普通について葛藤している」という思い込みがあったと思います。そして、その後「笑う障害者」を提案しました。
福本 これは、そのまんまやんって。私いつもゲラゲラ笑ってるし。かっこいい障害者がこのタイトルなら、障害者ははらわた煮えくりかえっている時にもニコニコせざるを得ないっていう皮肉も感じてもらえるんだろうけど。
——そうですね。そして「障害マストゴーオン!」を提案しました。
福本 完全に「ボヘミアン・ラプソディ」のパクリ(笑)で、ええんかいなって心配した。
——映画公開からもかなり時間が経ってしまいましたしね(笑) 周りから押し付けられるイメージにもがきながら、でもショーをやめることはできない。障害も、イメージを押し付けられながら、やめることができない。そこが、「ボヘミアン・ラプソディ」と一緒だと思いました。後、フレディ・マーキュリーは葛藤するけど絶対に譲らない。そこも福本さんぽいなあと。
福本 私もこの映画観に行って、意図はわかった。でも、えらいもんと比べられたなー。マーキュリーと似ても似つかん普通のおばさんは、今もお尻がこそばい感じです。
障害者がキーボード叩いているだけで感動される時代は終わり
——さて、今更なのですが、福本さんは普段、どんな風に原稿を書いているのですか?
福本 えっそれってどういう意味。なにかが降りてくるとか? 誰かに書いてもらっているとか? 誰も助けてくれないよー、あっ足で書いてます。
——えっ? いやいや、冗談ですよね。危ないですよ。
福本 なんてね。あー恐かった。障害者がキーボード叩いているだけで感動される時代はとっくに終わってる。そこからみんなで一歩進まなきゃね。でも、証拠写真でハイどーぞ。
誰にも助けて頂いてません。首フリフリ、肩コリコリ。指ツリツリ。自分と向き合い日々精進ですわ。
——最後に、この連載を読んでくださる方に伝えたいことを一言お願いします。
福本 生きていくのはきつい。でも、歩くことも歩き続けることでしか、働くのも働き続けることでしか会得できない。なぜ生きるのかはわからない、ですが、最期まで生き続けることでしかないと。
あなたも、あなたと違う体や言葉を持つ私も……。
——ありがとうございました。来週からの「障害マストゴーオン!」お楽しみに!