●宅浪×コンビニの夜勤バイト
「椎名林檎のセカンドアルバムが出るから」というだけの理由で、生きることを決意した私は、何の夢も目標も無いまま、浪人生活に突入します。
友人や恋人のいない状態で、進学も就職もせずに高校を卒業した若者の居場所は、当時も今も地域社会にはほとんどありません。クラスも部活も委員会も無くなるため、他者とコミュニケーションをとる機会は激減します。待ち受けているのは、完全な社会的孤立です。
ただ、それまでの三年間、孤独な生活を送っていた私は、誰とも話さない暮らし自体には良くも悪くも完全に慣れていました。「適当に勉強していても合格できる公立大学に行って、ひたすら自室にひきこもって絵を描く生活を送ろう」と決意しました。
強迫観念に駆られたまま、誰かが決めたルールの中で競争させられる人生はもうごめんだ。誰ともコミュニケーションをとらずに、好きな絵だけを描いてひっそりと暮らしていきたい……。その軍資金を稼ぐために、他人とほとんど話さなくて済むコンビニの一人夜勤のバイトを始めました。
予備校や塾を含め、学校的な空間には二度と近寄りたくなかったので、自宅で浪人(宅浪)することにしました。志望校は、苦手だった数学を使わなくても受験できる、関西の中堅公立大学に決めました。
宅浪×コンビニの夜勤バイトというコミュニケーションの希薄な環境の中で、誰ともしゃべらずに黙々とイラストを描き続ける日々が始まります。