今、僕は、一日に4~5回は「幸せだな」と思う瞬間がある。
バリ島の人たちは僕のことなんて知らないから、マクドナルドやケンタッキーにも好きなときに入って、気ままに食事ができる。
マックでまったりとシェイクを飲んでいるようなとき、「あー幸せだな。最高!」と思うことがある。「なんだそれ。ただシェイクを飲んでるだけで?」って言われそうだけど……。
日本だとすぐに「写真撮らせて」と多くの人に囲まれてしまうから、そういう当たり前のことがとんでもなく幸せに思える。
たまに日本のテレビの仕事をさせてもらうこともあるけど、興味がないことはやらない。楽しいことをして、自分でお金をやりくりする毎日は幸せだ。
「今、一番大切にしているものは何ですか?」人から聞かれたら、僕は「ラナ」って即答する。
ラナというのはバリで飼い始めた犬のことで、もう何年も一緒に暮らしている。
ラナを見つけたのは海の近くだったのを覚えている。
バリ島に移住して最初の数か月、僕は原チャリで海に行っては、ボーッと海を見たり、海に集まってくる人たちを見ることが多かった。
海を見ていると不思議に気持ちが落ち着いたし、嫌なことも忘れられた。
あるとき、いつものように海の近くを走っていると、ケガをした子犬が道路を歩いている姿が目に入った。
放っておいたら、いつクルマにひかれてもおかしくない。気がつくと、僕はポケットに入れて動物病院に向かっていた。
家族からはぐれて一匹で取り残された犬が、騙された自分と似ているように感じていた。だから、どうしても見捨てられなかったのかもしれない。
動物病院で診てもらったら、何かの虫がついているとかで、それを取り除く手術をしてもらうことになった。
最初は治療が終わって元気になったら、犬の家族のもとに返すつもりだった。それで元気になってから探したけど、どうしても見つからなかった。
で、ふたりで暮らし始めたら、だんだんかわいくなって、離れられなくなった。
もともと犬が好きでも何でもなかったのに、もうラナのいない生活は考えられなくなっていた。
ラナはウソをつかないし、もちろん僕のお金を使い込んだりもしない。まあ、下手すると僕より食事代がかかっているかもしれないけど。
僕が仕事で家を離れると、帰りを待っていてくれる。だから、僕は日本に行くことがあっても、滞在2日ですぐにバリに戻ってしまう。
ラナと一緒に寝るとき、僕は「今日も一日幸せだったな」と思う。「今日が幸せだった」と思える日が続けばいい。ただそれだけを考えて生きている。
僕が今、熱中していること
趣味のことを言うと、あれほど夢中になったエアブラシアートもやめてしまったし、モトクロスに乗るのもやめてしまった。
で、僕は今、毎日歌の練習をしている。
新庄剛志に「歌」のイメージはないって? いや、意外かもしれないけど、僕は超本気だ。
歌に興味を持ったのは、福山雅治さんのライブに影響されたから。あるとき福山さんのライブを見て、「あ、この人、格好いい」って思った。
こんなふうに、歌でみんなを泣かせたり、感動させたりできたら、どんなにすごいだろうと思った。
じゃあ、僕は歌がうまいのかというと、全然そんなことはない。
そんなことがないというか、はっきり言って下手クソだ。
実を言うと、タイガース時代にCDを出したことがある。
当時は人気の野球選手がCDを出すことがよくあった。だから、自分で歌いたいと言ったわけでもなく、歌がうまいからオファーがあったわけでもない。
レコーディングのとき、先生とこんなやり取りをしたことがあった。
「新庄さんのキーの高さを知りたいから、ドレミファソラシド……ってずっとキーを上げていってみてくださいね」
それで言われた通りにやってみるんだけど、全然うまくいかない。
「あのー、新庄さん。キーを上げるんですよ。キーを上げてくださいね」
僕は、ただ声色を変えて、同じ音程で「ドレミファソラシド……」とやっているだけ。ふざけているんじゃなくて、マジだった。キーを上げるということすら、よくわかっていなかったんだ。
でも、下手だからこそ、歌をがんばっている。
一番下手だったから野球をやったのと一緒。
最初からうまくいくことなんてつまらない。チャレンジしてもしょうがない。やるなら一番難しいところに行きたい。一番難しい道をクリアしたい。
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