新庄剛志】激しい気性の母ちゃん、超優秀だった姉ちゃん #13

新庄さんの破天荒な父親のエピソードを紹介した前回(第12回)に続き、今回も家族のエピソードを紹介します。スター新庄さんの原点がここにあり! 
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親父は仕事が終わると居酒屋に通うのが日課だった。

特に立ち飲み屋が大好きで、僕も小学校に上がる前から、よく連れて行ってもらった記憶がある。酔っ払いの大人たちに、一人だけちびっ子が紛れ込んでいるから結構目立つ。
「おいボウズ、これ食べろ」
いろんなつまみをもらったりして、みんなからかわいがってもらっていた。

家には、親父と付き合いのある職人さんが来ることも多かったから、大人に接するのは慣れっこだった。
あまり人見知りしないで話ができるのは、こんな経験が役立ったのかもしれない。

ただ、親父には喧嘩っ早いところもあって、ちょっとしたことで飲み屋のお客さんとよく喧嘩になっていた。
大人同士の喧嘩を見るのは怖かった。親父の喧嘩を見て泣いたのは、一度や二度じゃない。

あるときなんか、暴走族が走っているところに、親父が「うるせーぞ!」と一人で乗り込んでいったことがある。
そのときは、ボッコボコにされて、あばら骨を折って帰ってきた。
それでも次の日には、普通に仕事をしていた。

親父はひどい熱が出ても休もうとはせず、「これは病気じゃない」とか言って、普通に仕事に出掛けていた。仕事に行くだけじゃなくて、いつも通りに飲みにも行っていた。で、いつものように明け方近くに帰ってきた。

どんなに帰りが遅くても、翌日は寝坊なんてしないで、朝6時には起きて仕事に行っていた。睡眠時間は2~3時間。
やっていることはめちゃくちゃだけど、「疲れた」とか「今日は休み」なんて絶対に言わないところは尊敬していた。

プライベートで何があろうと絶対に言いわけをせず、ただ黙々と目の前の仕事をやり続ける。
ちょっとハチャメチャな親父だけど、仕事の厳しさ、仕事をやり抜くことの大切さ、格好良さを、僕は親父の背中を見て学んだ。

親父は僕の成長がとにかく楽しみだったんだろう。
僕の高校時代、親父は毎日のように野球の練習を見に来ていた。
僕は寮で暮らしていたから、親父が僕の顔を見られるのは練習中だけ。僕に変わった様子がないか、心配で見に来ていたというのもある。

普通、選手の親は試合のときは応援に来るけど、練習にまで顔を出すなんてことは滅多にない。
すぐに野球部のチームメイトに顔を覚えられるようになって、どういうわけか陸上部とか他の部活の連中にまでも、親父の存在は知れ渡るようになった。

親父は、僕がメジャーに挑戦したころ、断りもなく勝手に僕のことを書いた本を出版した。どんな話を書いていたのか読んでいないけど、親父はこのときのことを振り返って「父親が真剣に息子の練習を見れば、取り組む姿勢も違ってくる」なんて書いていたらしい。

だけど本当のことを言えば、当時は思春期だったし、見に来てくれて嬉しいというより、「マジで仕事しろよ」と思っていた。仕事に妥協しなかったのと同じくらい、親父は息子の応援にも妥協しなかったみたいだ。

「荒れた手」の秘密

そんなある日のこと、僕は意を決して、練習を見に来た親父に革手袋を買ってほしいと頼みこんだ。
小さいころから、ほしいものを買ってもらえたことはほとんどなかった。だから、「あれがほしい」とか物をねだったことはない。

でも、真冬の寒い日に、革手袋なしで練習するのは相当キツい。
しばらくは素手で我慢していたんだけど、痛くてどうにもならなくなった。おそるおそる頼んだら、親父は「おお、わかった」と言って、次の日、寮まで革手袋を届けに来てくれた。

それからしばらくして、正月に実家に帰ったとき、親父の手を見て驚いた。手がザラザラに荒れていたんだ。
「なに、その手。どうしたん?」
「あー、ちょっとかぶれただけや」
「ふーん」

そのときは、それで終わったんだけど、後で母ちゃんから理由を教えてもらった。
「お父さんは、仕事に使う軍手のお金で、あんたの手袋を買ったんだよ。素手で仕事をしていたからやろ」

親父、マジでありがとうと思った。
軍手のお金くらい仕事をして稼げよ、とも思ったけど。

親父は親父なりに真剣だったんだろう。
とにかく僕を野球選手にすることに夢中だった。
僕は真剣に向き合われると、やっぱり応えたくなる人間だ。だから親父のおかげでプロ野球選手になれたというのは、その通りだ。

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新庄剛志

テレビ『しくじり先生』で、「20億円を使いこまれていた」と衝撃の告白をし、日本中にセンセーションを起こした新庄剛志さん。失意のどん底で、何を考え、どう乗り越えたのか!? 新庄剛志さんが自身の半生を綴った『わいたこら。』(学研プラス)を...もっと読む

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