スタートから後がない僕は、結果を出すしかない。
目立つ結果を出すには、みんなが無理だと思う状況で結果を出すのが一番。
そんな僕に、スター選手との対戦という、願ってもないチャンスが回ってきた。 相手ピッチャーはランディ・ジョンソン。泣く子も黙る、メジャーナンバーワンの左ピッチャー。身長208センチで、大きな翼を持った巨大なワシのようだ。
その日、僕は日本人メジャーリーガー初の4番で起用された。
バレンタイン監督が、なんで僕を4番に起用したんだろう。僕のお祭り男っぽいところに期待したんだろうか。
……で、初打席は、三振。
高速スライダーにまったく対応できず、振り逃げで出塁するのが精一杯だった。
マウンドのランディは、めちゃくちゃ近く見えた。200キロくらいのスピードボールをイメージしてボールを待つんだけど、それでも全然間に合わない。
結局、その後の打席では当たりが出ず、4打数0安打3三振。4番を打たせてくれた監督の期待に応えられなかった。
そこから、10日以上スタメン落ちが続いた。
「もう今シーズン、スタメンはないかも」と思っていたら、また4番に起用された。 そして再び、スター選手と対戦のチャンスが巡ってきた。
ピッチャーはカート・シリング。今度はメジャーを代表する右ピッチャーだ。 彼と対戦すると聞いた瞬間、スイッチが入った。
「よっしゃ、今度こそもらった!」
ここで僕が打てば、一気にスターになれる。失敗すれば、もう二度とスタメンはないだろう。人生には絶対に逃しちゃいけないチャンスがある。今がそれだ。
その日、僕はシリングを打った。勝負に勝ったんだ。
そこから僕はしばらく、メッツの4番で出場することになる。
打順で年俸を並べてみると、1番9億、2番12億、3番17億、4番2200万、5番15億、6番10億といった感じの、超でこぼこのラインナップだ。
シーズンを終えて日本に帰国すると、僕はスーパースター「SHINJO」になっていた。もう、僕のことを「日本の恥」と言う人はいなくなっていた。