朝から雨がポトポトと降っている。
誰もお世話をしない多摩川の植物にとって、雨は命の水となる。
ここ数日、からからに乾いた天気が続き、多摩川の野草は水不足に陥ってしおれていた。
お昼休みに、いつものように野草弁当をさっと食べて向かった先は多摩川河川敷。
河川敷には大きな水たまりのプールが完成していた。
今日は川には近づかず、土手側の野草を観察しよう。
※水かさが増しているときに、川に近づくのはやめましょう。大変危険です。
雨に濡れた青い花。
雨で視界が悪い多摩川で、涼しげな青い花を咲かせている野草に出会った。
これはツユクサ。可憐な青い花が雨の中でもひときわ目立つ。
お花はミッキーマウスの耳のような形。
ツユクサの名前から、何となく雨を想像するが、名前の由来は雨ではない。
朝露を含んだ姿のことだったり、月草だったり、色が着きやすい草だったり。
植物の名前の由来は、地域によっても違うし、時代によっても違う。
葉は笹と似た形をしているが、笹のように葉の縁が鋭くない。
花の季節に全草を採って乾燥させたものは「鴨跖草(オウセキソウ)」といって、消炎・解熱作用・むくみに効果があるらしい。食べて美味しい、効能も嬉しい野草のひとつだ。
花言葉は「なつかしい関係」「密かな恋」「変わらぬ思い」。
花言葉のイメージで、八代亜紀さんの「雨の慕情」を口ずさみながら、雨に濡れたツユクサを摘んだ。
“あめあめふれふれもっとふれ わたしのいいひとつれてこい”
会社に戻り、濡れた傘のしずくを払い、傘立てにたてる。
今日も滞りなく仕事がはじめられそうだ。
15時頃、課長が客先の営業から戻ってきた。
「階段と廊下が泥だらけだよ!」
わ——ヤバい!!
長靴の底に泥がついていたようだ。
「犯人は私です!」とすぐさま手をあげる。
会社で野草の趣味は秘密にしているので、まさか私が多摩川に野草を採りに行っていたとは思わないだろう。
不思議そうな表情を浮かべる同僚と課長にニッコリ笑顔で返し、すぐに会社の廊下を雑巾がけする。
多摩川で野草と水たまりで遊んでいる場合ではなかった。
雨の日はオフィスで野草図鑑でも読むのが正解だな。
まだ脳内で八代亜紀さんの「雨の慕情」が“憎い 恋しい 憎い 恋しい”とリピートされていた。
横を通った同僚が「ひい!」と小さく悲鳴をあげた。
雑巾がけをしながら、「憎い・・・」と口から漏れてしまっていたようだ。
ごめん、あなたのことじゃない。
憎くて恋しい間にオフィスの廊下と階段はピカピカになった。
ツユクサの下処理
帰宅してすぐに野草の下処理をする。
野草は、摘んだらその日のうちに処理をしよう。
野菜と違い、保存期間が分かるものではないし、冷蔵庫に長く保存しておくものでもない。
採れたてなのだから、新鮮なうちにいただきたい。
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