皆さんには、「あんな風になってみたい」、あるいは「ぜったいあんな奴と一緒にされたくない」と思う人っていますか? こういった人々のことを、準拠集団と言います。
これまでの連載でも、「自分たちは東京の田舎にある大学の学生だ。慶應とか上智みたいなキラキラした学生生活とは縁遠い」と、うちの学生が思っている、という話をしました。そんな学生に、「慶應の友達は何人いるの?」と聞くと、「いや、いません」とか「高校の友達が慶應に行ったんですけど、大学生になってからは会っていません」という返事がきます。「え、実在の慶應の学生を知らないの? それ麒麟ではないよね?」と突っ込みたくなります。麒麟のごとき想像上の存在としての慶應大学の学生もまた、準拠集団の一種です。
準拠集団とは、その人の評価、願望、行動に重要な影響を持つ実在または想像上の個人または集団のことです。知っている誰かでもいいですし、会ったことのない誰かでもよいのです。例えば、サッカー少年が、たとえ香川選手や本田選手に会ったことはなくても、彼らの一挙手一投足に影響を受けてしまうこともあるのです。
ジュリエット・ショアという人が書いた『浪費するアメリカ人:なぜ要らないものまで欲しがるか』(岩波現代文庫)という本があります。なぜアメリカ人は浪費するのか? 彼女が着目したのは、アメリカ人女性の社会進出です。かつてアメリカでも、働かない女性や結婚したら家庭に入る女性が多い時代がありました。しかし、時代が進むと、結婚後も働き続けたり、専業主婦をやめて働き出したりする女性が増えてきます。そうすると女性にとっての準拠集団が変わるとショアは考えました。
専業主婦の時は、ふだん接するのは同じような専業主婦です。しかし働き始めると、職場の上司や同僚であったり、あるいは著名人であったりと、これまで出会わなかった人との接点が増えていきます。
すると何が起こるのでしょうか? 例えばオシャレで仕事もできる上司や同僚と接するようになると、自分もまたオシャレにしたいという気持ちが芽生えます。オシャレをするにはお金がかかりますよね。もっとお金をかけるには、より稼ぐ必要があります。すると労働時間が拡大し、さらに女性の社会進出が進んでいきます。浪費するのは、新しく社会的接触を持つ準拠集団からの影響を受けたから、と彼女は解釈しているのです。
ショアは、これは悪循環だと言っています。しかしマーケターの立場から考えると、ターゲットとなるお客さんにとって、影響力のある準拠集団を設定してあげると、消費を喚起できるとも言えます。なぜスポーツ用品のブランドの多くが、トップアスリートを広告に起用するのか、これでお分かりだと思います。憧れの存在が使っているスポーツ用品を、多くの人は使いたがるのです。
この準拠集団は3つに分けることができます。願望集団、拒否集団、所属集団です。それぞれ見ていきましょう。
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