ヤマト誕生をめぐる食い違う回想 ~宇宙戦艦ヤマト③~

2010年代に入ってから、ウルトラシリーズ、仮面ライダー、ヤマト、ガンダム、あるいは「ベルばら」「ポーの一族」などが次々と40、50周年を迎えている。それらはみな、単に昔のものとしてあるだけでなく、現役のコンテンツとして新作が発表され、映像化、舞台化されている。逆算すれば分かるが、これらの大半は1970年代に始まった。 1960年に生まれ、アニメ、特撮ものを最初期からテレビで見ていた中川右介(作家、編集者)が「リアルタイムの記憶を基にして目撃譚」として描くサブカル勃興史。

「記憶をたどりながら書きますが、公にするからには、記憶にだけ頼り、間違ったことを書いてはいかないので、改めて調べ、事実確認をして書きます。歴史家的視点と、当時の少年視聴者・読者としての記憶とを融合させ、「読者・視聴者としてサブカル勃興期を体験した者が書く歴史」を提示したいと思います。(筆者)

●松本零士とヤマトの出会い

松本零士は二〇〇二年に出した自伝『遠く時の輪の接する処』に〈『男おいどん』の連載が終わってしばらくした頃〉、秋田書店の「冒険王」編集部から、テレビアニメ化が決まっている企画のマンガを描いてくれとの依頼があったのが、『宇宙戦艦ヤマト』の始まりだったと記している。

『男おいどん』は七三年八月に終わり、『宇宙戦艦ヤマト』の連載は一年以上後の七四年一一月号からだ。「しばらくした頃」とはいつのことなのか不明確だ。

 同書によれば「冒険王」から依頼があった時点で、西崎による企画書があり、〈ざっと目を通したが、失礼ながら、マンガ作品としてはそのままではモノになるような内容ではなかった。/「全部おシャカにして、一から原作を作り直すがいいか」と確認したら「全部好きにやってくれ」というので引き受け、全面的に書き直しをした。だから原案とは、まったく別のものになっている。〉

 この本は松本と西崎がヤマトの権利をめぐり争っている時期に出ているので、松本としては、西崎の原案をボツにして自分が一から作り直したものが『宇宙戦艦ヤマト』になったと主張したいのかもしれない。

 西崎は、松本を起用した理由について、虫プロ商事発行の「COM」の表紙が気に入っていたからだと語ったことがある。たしかに、西崎が虫プロ商事に関わっていた一九七一年一二月号(この号でいったん休刊する)の表紙は、松本が描いている。きっかけのひとつではあるのだろう。

 松本が参画したのがいつからかについては、いろいろな人が証言をしているが、共通するのは、松本零士が加わったのは途中からということと、松本零士が加わる前と、加わってからとでは、設定がだいぶ変わったということの二点だ。

 松本としては、だから『宇宙戦艦ヤマト』は自分のものだとの思いがある。西崎としては、松本はスタッフのひとりとして途中から参加しただけなので「原作者」ではない、となる。

 表面的には、『マジンガーZ』や『デビルマン』の関係に似ているので、僕などは、『宇宙戦艦ヤマト』は松本零士の作品だと思い込んでいたが、前者は永井豪のアイデアが最初にあり、それをアニメの制作会社である東映動画に提案して始まったが、『宇宙戦艦ヤマト』の場合は、松本零士が発案者ではなかったのだ。


●豊田有恒の回想

『宇宙戦艦ヤマト』の「SF設定」を担ったのが、SF作家の豊田有恒だ。豊田は日本のSF作家の第一世代にあたる。まだSFが市民権を得ていない時代にデビューした、星新一、小松左京、筒井康隆らと同世代だ。

 豊田が最初にしたアニメの仕事が一九六三年に放映された『エイトマン』だった。マンガの原作を書いたのは豊田と同世代の平井和正で、互いによく知っていた。豊田のアニメ『エイトマン』のシナリオは評判になり、手塚から『鉄腕アトム』のシナリオも書いてくれと頼まれた。

 こうして豊田は虫プロの『鉄腕アトム』のシナリオライターのひとりとなり、新たに企画された『ナンバーセブン』にも取り組むことになった。『ナンバーセブン』はフジテレビで放映される予定だったが、同時期にTBSで類似の企画『宇宙少年ソラン』が進行していることが分かった。

 豊田はTBSの『エイトマン』に関わっており、『ソラン』はTBSなので、彼が虫プロで得た情報を漏らしたのではないかと疑われた。豊田はそれを否認し、手塚と大ゲンカとなった。結局、虫プロにいられなくなり、豊田は去った。後に情報を漏らしたのは豊田ではなかったことが証明され、手塚と和解する。

 豊田はその後も『スーパージェッター』『宇宙少年ソラン』などのアニメのシナリオを書いていたが、六七年の『冒険ガボテン島』を最後に、小説に専念していた。

 そんな豊田のもとに、元虫プロの山本暎一から、「本格的なSFアニメをやりたいプロデューサーがいるので、ぜひ会ってほしい」という内容の電話があった。そのプロデューサーが西崎義展だったのだ。

 豊田は『ヤマト』との関わりについて『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』と『日本SFアニメ創世記』に詳しく書いている。それによると—豊田が西崎と会った時点で、〈マンガは松本零士に依頼して、承諾を貰っているという。ただ、松本の原作があって、それをアニメ化するわけではないから、オリジナルの設定を作らなければならない〉、その「SF設定」については、ジャンルの指定もなく、任せると言われた。

 その時に西崎は「ロバート・A・ハインラインの『地球脱出』のような話にしたい」とも言い、それが豊田をして、この企画に乗ってもいいと思わしめた理由となる。ハインラインはアメリカの人気SF作家だが、日本ではSFファン以外には知られていない。そんな作家の作品を知っているだけで、SF作家である豊田は嬉しくなってしまったのだ。

 一九七三年に流行していたのは、ロボットアニメである。これもSFではあるが、豊田としては、『アトム』や『エイトマン』などで、さんざん書いたジャンルだ。いまさらやる気はなかった。だが、西崎が持ち出した『地球脱出』は、巨大な宇宙船で他の太陽系の惑星へと移民する話だ。そんな話がテレビアニメになるとは思えないが、そんなことを言うプロデューサーには興味があった。

 豊田は〈心の中で、半ば忘れかけていたアニメ心に火がついた〉。そしてその場で引き受けてしまった。もっとも、小説の仕事を抱えていたので、シナリオを書くのは無理で、基本設定を考えるのみとした。西崎はアニメには豊田の「原案」としてクレジットを入れるとも言ったが、これは口約束で終わってしまう。

 こうしてできた豊田の原案は「アステロイド6」というタイトルのものだった。異星人から攻撃され、瀕死の状態になった地球を脱出して、放射能除去装置を求めて長い旅をするという物語だ。この時点では戦艦大和を宇宙戦艦にするというアイデアは、まだない。

 豊田の他に、西崎が企画案を委ねたのは、アニメのシナリオを多く手がけていた藤川桂介で、二人はそれぞれ案を考えた。豊田案が「アステロイド6」、藤川案が「宇宙戦艦コスモ」と題されていた。豊田のほうが採用され、これをもとに肉付けされていく。

 最初は「小惑星にエンジンを組み込んだ宇宙船」というアイデアだった。宇宙船のイメージが大和をモデルにしたものに変わり、「宇宙戦艦ヤマト」という仮題の企画書ができたのが、七三年夏だった。松本零士はまだ参加していない。

 この豊田の原案ができたところで、西崎、山本、豊田に、松本零士も加わってのミーティングが始まる。豊田によれば、初めて松本と会ったのは西崎の事務所で、軍事的な話題で盛り上がり、松本が豊田の原案は面白いと言ったので、すっかり意気投合したという。

 豊田は〈ぼくが担当したのは、SF設定の部分だけだった。どういう枠組みでシリーズが進行するかという設定なのだが、SF的な設定だけで、人物設定にも、個々のストーリーにも関与していない。事実関係をはっきりさせておくが、人物設定は、キャラクター、デザインともに、すべて松本零士さんの手になる〉と書いている。

 そして、戦艦大和を出そうということは、豊田のいない場で、松本と西崎とが決めたものだという。


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a_tocci ハインラインはアメリカの人気SF作家だが、日本ではSFファン以外には知られていない。そんな作家の作品を知っているだけで、SF作家である豊田は嬉しくなってしまったのだ。 https://t.co/TOrdsVNeMJ 3ヶ月前 replyretweetfavorite

a_tocci そのとき西崎は「ロバート・A・ハインラインの『地球脱出』のような話にしたい」とも言い、それが豊田をして、この企画に乗ってもいいと思った理由となる。https://t.co/TOrdsVNeMJ 3ヶ月前 replyretweetfavorite