お金もなくなり、嫁さんもいなくなったけど、バリ島に移住するという決意は変わらなかった。後になって、いろんな人からこう言われた。
「新庄さんはお金を取られて、日本に居づらくなって、バリ島に逃げたんですか?」
いや、逃げたというのは違う。だって、バリ島に住むと決めたときには、まだお金を取られたなんて気づいてなかったんだから。
バリ島に初めて行ったのは、前に話したように、CM撮影の仕事があったから。
撮影が終わり、せっかく来たんだしと思って、ホテルの部屋を出て夜のビーチに行ってみた。
ビーチに出ると、たくさん人がいるのが目に入った。カップルたちが夜の散歩を楽しんでいる。
一瞬、「あ、まずい」と思った。
なぜかというと、僕はプロ野球の選手を辞めたばかりだし、普通の人から見たらピカピカの有名人だ。
日本で、人がたくさんいる場所に出て行くと、100%「新庄だ!新庄だ!」とみんなから指を差される。そんなときに、あんまり愉快じゃない経験もいっぱいしている。
でも、バリ島は違っていた。ここには僕を知っている人がいない。地元の人は誰も、僕のことなんか気にしてないし、見てもいない。
みんな好き勝手にバリ島の夜を楽しんでいる。ほんの数時間前まで、数十人の大人たちに注目されながら撮影をしていたのが、ウソみたいに思えてくる。
「やばい、これ、最高の島かも」
なんだか、じわじわと楽しくなってきて、そのとき最高のアイデアがひらめいた。
「そうだ、明日からここに住もう。ここに住めばいいんだ」 それまでいろんな決断をしてきたけど、こんなにワクワクする決断はなかった。
バリ島で誰にも注目されず、静かに暮らすというのが、僕にはとんでもなく贅沢なことのように思えてきた。 でも、金銭トラブルがわかってからは、バリ移住の意味がちょっと変わってきた。
もう日本に居たくない、というのも本音だった。僕は精神的に疲れていて、どこでもいいから日本から遠く離れたかった。
ただ、もうこれからは毎日楽しく生きるだけ。とにかく楽しく生きることだけ考えよう。僕はそう覚悟を決めた。
戻ってきた8000万円で、バリに新しい家を買った。家を買ったら、もう僕に残っているお金はない。
それでも不安なんてなくて、ただ、バリで一からやり直すことだけを考えていた。
僕はもう自分で好きなようにお金を稼ぎ、好きなように使って暮らすんだ。これからの人生は誰のものでもなく、100%自分のものなんだ。
そう思うことで、僕はなんとか苦しみを乗り切ろうとしていたのかもしれない。
僕はもう自分で好きなようにお金を稼ぎ、
好きなように使って暮らすんだ。
これからの人生は誰のものでもなく、
100%自分のものなんだ。
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