Lowなブギにしてくれ
声が低い。どれくらい低いかというと、中学生のとき合唱の授業で男声パートに振り分けられてしまったくらい低い。電話口で父親に間違えられることもしょっちゅうあった。そのうえオタク特有の不明瞭な早口で喋るので、たぶん私の話はすごく聞き取りづらい。早口だけでも治そうと意識しているが、酒が入ったり疲れてるとスッポリ忘れてしまって中央卸売市場の如きマシンガントークになってしまう。たまにスクラッチ的に吃音も出るので、DJとMCを一人でやっているような塩梅になることもある。
かように自分の「ベシャリの立たなさ」には十分自覚があったのだが、日雇い労働で食いつないでいた時期、真夏にどうしても屋内で働きたくてコールセンターのバイトに応募してしまったことがある。電話も大の苦手だったが、エアコンの誘惑には勝てなかった。結果から言うと私はこのバイトのおかげで電話への苦手意識をかなり克服し、喋り方もちょっとうまくなった。のだが、未だに引っかかっていることがある。
見えないスマイル
バイトに受かるとまずは研修が行われた。端末の使い方やテンプレ言葉を覚えさせられるのだが、中でも「笑声(えごえ)」というやつを繰り返し練習させられた。顔が見えなくても相手側に笑顔が伝わる声、というコールセンター用語らしい。分かるような分からないような、イメージできるようなできないような。これがねー、マスターするのにたいへん苦労しました。普段地を這うような声でしか喋ってないので、なかなか声が「笑顔」にならない。「もっと高く! もっと高い、いい声で!」と何度もご指導ご鞭撻を喰らってしまった。
そう、低い声だとダメなんである。「声が低いとお客様に失礼です!」とまで言われて、だいぶびっくりしてしまった。じゃあクリス・ペプラーとかジョージ・クルーニーはどうすんだよと思ったが、男性は低い声のほうが「落ち着いていて、頼り甲斐があり、信頼できる」という評価になるのだという。そんな、話してる内容は女も男も同じテンプレなのに。ていうか私のデフォルト声は「失礼」なのか……。
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