君の地声で僕を呼んで

作家・王谷晶さんの「女のカラダ」をとことん考える連載、第9回。今回のテーマは「声」。「合唱の授業で男声パートに振り分けられ」「中央卸売市場の如きマシンガントーク」「たまにスクラッチ的に吃音」な王谷さん。コールセンターのバイトを経て、気づいたこととは…。
ナメるか、ナメられるか、ナメさせるか。読めば人生が輝く、好評爆走エッセイ。

Lowなブギにしてくれ

声が低い。どれくらい低いかというと、中学生のとき合唱の授業で男声パートに振り分けられてしまったくらい低い。電話口で父親に間違えられることもしょっちゅうあった。そのうえオタク特有の不明瞭な早口で喋るので、たぶん私の話はすごく聞き取りづらい。早口だけでも治そうと意識しているが、酒が入ったり疲れてるとスッポリ忘れてしまって中央卸売市場の如きマシンガントークになってしまう。たまにスクラッチ的に吃音も出るので、DJとMCを一人でやっているような塩梅になることもある。

かように自分の「ベシャリの立たなさ」には十分自覚があったのだが、日雇い労働で食いつないでいた時期、真夏にどうしても屋内で働きたくてコールセンターのバイトに応募してしまったことがある。電話も大の苦手だったが、エアコンの誘惑には勝てなかった。結果から言うと私はこのバイトのおかげで電話への苦手意識をかなり克服し、喋り方もちょっとうまくなった。のだが、未だに引っかかっていることがある。

見えないスマイル

バイトに受かるとまずは研修が行われた。端末の使い方やテンプレ言葉を覚えさせられるのだが、中でも「笑声(えごえ)」というやつを繰り返し練習させられた。顔が見えなくても相手側に笑顔が伝わる声、というコールセンター用語らしい。分かるような分からないような、イメージできるようなできないような。これがねー、マスターするのにたいへん苦労しました。普段地を這うような声でしか喋ってないので、なかなか声が「笑顔」にならない。「もっと高く! もっと高い、いい声で!」と何度もご指導ご鞭撻を喰らってしまった。

そう、低い声だとダメなんである。「声が低いとお客様に失礼です!」とまで言われて、だいぶびっくりしてしまった。じゃあクリス・ペプラーとかジョージ・クルーニーはどうすんだよと思ったが、男性は低い声のほうが「落ち着いていて、頼り甲斐があり、信頼できる」という評価になるのだという。そんな、話してる内容は女も男も同じテンプレなのに。ていうか私のデフォルト声は「失礼」なのか……。

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どうせカラダが目当てでしょ

王谷晶

脱・ライフハック! 脱・ヘルシー! ウェルカム非生産! 「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」女子なら一度はかけられる呪い。でもその美しさって本当は誰のためのもの? “女と女が主人公”の短編集『完璧じゃない、あたしたち』が...もっと読む

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コメント

sazuka_null 玉谷さんのエッセーおもしろい https://t.co/Zzba8aph98 約1年前 replyretweetfavorite

Kawade_bungei 女体連載更新! ちなみに本連載、王谷さんご自身によるタイトル、見出し付けにもぜひご注目ください→ 約1年前 replyretweetfavorite

aya_shonan 産声の時点で祖母が嘆いたほどの低いガサ声を持つ私としては、共感以外の何者でもない。誠にファッキン遺憾ですよ本当に。ただ、声のせいでナメていると思われることは多かったが、声のおかげでナメられることは少なかった。 https://t.co/KhiInFcZ38 約1年前 replyretweetfavorite

konohanoyume 人をなめくさって、こちらの正当な主張を「言い方がきつい、失礼」と言ってのける同期の男含む打ち合わせの前に読めて良かったです。 笑顔でハイハイ頷く女しかご存知なかったですか~?😊 って気持ちで行ってきます。 https://t.co/7KqcxN5zKP 約1年前 replyretweetfavorite