福徳人と子どもたち
しかし、それだけではない(前回参照)。家と家との移動中にも一騒動待っているのだ。
各家から出てくる福徳神を木や建物の物陰からこっそり伺っている小さな人影がある。島の子どもたちだ。7人ぐらいだろうか?ちなみに平島小中学校の全校生徒である。島生まれの子はおらず、「山海留学生」や学校の先生の子どもたちで構成されている。その後ろには若い先生たちの姿も。福徳神が子どもたちの射程範囲に入ったとたん「それ!」と、手に持っていた洗面器の水を福徳神に思いっきりかける!冷水がキラキラと宙を舞う。
バシャッ!ジャバッ!バシャッ!
再度お伝えするが……「真冬」である。しかも、明日は大寒波が押し寄せるという予報が出 ている前夜(カセダウチの時はいつも大寒波なのだそう)。冷たい小雨もハラハラ天から降ってきた。そんな中の冷水!ひぃ~、見てるだけでこっちが凍え死にそう!福徳神がビロウの中に雨具を着込んでいたのはこのためだったのだ。
水も滴るいい神様・福徳神がピタッと動きを止める。そして、まるでロボットのように頭だけをクルリと子どもたちの方へ向けた。と、その瞬間、水をかけた子めがけて無言でダッシュ!福徳神は口上以外は言葉を発してはいけないらしい。何気にこの世の者じゃないようで、ちょっとゾクゾクする。福徳神役の人の演技力なかなかすごい!
ビロウが揺れまくりバサッバサッと音を立てる。雫がビロウからも飛び散る。「きゃ~!きゃ~!」暗闇の中、大声で笑いながら逃げ惑う子どもたち。そのうちの一人が福徳神にまんまと背後から全身を掴まれた。福徳神は墨の付いた軍手で、その子どもの顔をグリグリと撫で回す。
顔は墨で真っ黒!男子も女子も、子どもたちはますます、きゃっきゃっとはしゃぎまくる。この墨を塗られると1年間、無病息災でいられるという。
昔は墨ではなく台所のかまどの灰に油を混ぜたモノだったそう。福徳神が各家のかまどから灰をその都度分けてもらっていたらしい。台所にあるものを使う。いかにも、五穀豊穣らしい。去ってゆく福徳神を再び追いかける子どもたち。次の家の外で水かけする場所をみんなで探し始めるのだった。
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