思いつくことと、実証して発信することの間には、天と地の差がある

「99%抜けるドリブル理論」をもとに、その人に合ったドリブル技術を指導するドリブルデザイナー・岡部将和さん。理不尽な根性論が幅を利かせるスポーツの世界にいながら、技術を言語化し、理論を組み立てることができたのはなぜか。それは、将棋から学んだ逆算の思考を持っていたからでした。石川善樹さんはそこに着目し、科学的に実証して発信することの大切さを語ります。

逆算の考え方が、ドリブル理論を生んだ

石川善樹(以下、石川) そもそもなぜ、岡部さんはドリブルデザイナーとして「99%抜けるドリブル理論」を編み出そうと思ったんですか?

岡部将和(以下、岡部) 僕はもともとフットサルの選手だったんですけど、体が小さいため、体格のいい相手や足の速い相手と戦うと勝てなかったんです。どんなにテクニックを磨いても、屈強なディフェンスに飛ばされたり、体を入れられてしまったりする。そこで、フィジカルで対抗しないで抜き去ることはできないか考えました。


左:石川善樹さん、右:岡部将和さん

石川 それで、「絶対勝てる間合いに忍び込む」という方法にたどり着いたんですね。

岡部 はい。そこにたどり着くには、「なぜドリブルをするのか」というところまで遡る必要がありました。僕の家系は、曽祖父が将棋の棋士で、祖父も棋士を目指していたという、「将棋家系」だったんです。将棋って、「何十手か先に、こういう手を指したい・こういう形にしたい」というところから、次の一手を逆算して考えていきます。だから僕は、物事を逆算して考えるというくせがついていたんですよ。

石川 おもしろいですね! たしかに岡部さんのお話を聞いていると、「なぜ」を繰り返して考えていると感じます。岡部さんの他に、ドリブルの専門コーチっているんですか?

岡部 僕が調べた限りでは、広く活動している方はいないと思います。

石川 では、これまでサッカーの指導者がドリブルを教えるときはどうしていたんでしょう。

岡部 「とりあえずやれ」という感じですね(笑)。みんな、ドリブルに理論があるとは考えていないんです。FCバルセロナのトップ選手にこのドリブル理論について教えたことがあるのですが、その人ですら「どうやって抜くか、理論立てて考えたことはなかった」と言っていました。

石川 うまい人は、なんとなくできちゃうんでしょうね。

岡部 そうなんですよ。身体能力やセンス、勘などでどうにかしてしまう。だから、どうドリブルすべきか、ということが言語化されたことはなかったんだと思います。

石川 それは、僕がよく言う「『考える』ということを、誰もちゃんと考えたことがない」ということに通じるかもしれません。上司や先生は、部下や生徒に「もっとよく考えろ!」と言うけれど、どう考えるのかは教えてくれない。これは、ドリブルの抜き方を言語化して教えていないのに、「とにかく抜け!」と言うのと同じですよね。

岡部 ああ、そうだと思います。最終的には「気合いだ」って話になっちゃうんですよね。だからドリブルの練習って、コーンドリブルをとにかく回数こなす、とかしかないんですよ。

コーンドリブルに意味はなかった

石川 コーンドリブルって、コーンを線上にいくつか置いて、それをジグザグによけながらドリブルするやつですよね。あれってなんのためにやってるんですか?

岡部 特に目的はないですね。強いて言えば、ボールのコントロールを上達させるため、でしょう。でも、ただボールのコントロールがうまくなっても、ディフェンスが強ければボールを取られてしまいます。コーンが人間の大きさだったら、まだやる意味があるかもしれません。

石川 というと?

岡部 コーンドリブルってもともとは、コーンをディフェンスに見立てて、それをかわす練習なんです。でもあんなに小さいディフェンスは存在しないので、意味がない。だから、人間の大きさにしたほうがいい
 あとはコーンの間隔を2m2cmにします。世界トップレベルのディフェンダーだったら、この間隔で足がとどくということをわかってもらうために。

石川 はー、なるほど。コーンドリブルとか、これまで「そういうものだ」と思われていたけれど、実はただやっても意味がないみたいなことは、たくさんありそうですね。これは以前お仕事でご一緒した、元サッカー選手の中西哲生さんに聞いたのですが、これまでディフェンスは足の親指の付け根の「母趾球」に体重を乗せろと言われていました。僕も、ラクロスのゴールキーパーはそうしたほうがいいと習いました。母趾球に力を入れて立っていると、左右どちらにも動きやすい、みたいな。
 でも中西さんは、実は足裏の外側で立ったほうが安定するのだと言っていました。骨の作りから考えても、そちらのほうが安定する。そして、外側に力を入れたほうが左右どちらにも対応しやすいんです。やってみたらたしかにそうだったので、ラクロス部の後輩にすぐ教えに行きました(笑)。

岡部 そういう思い込みはたくさんあると思います。

石川 野球でそういう思い込みをどんどん覆していったのが、桑田真澄さんですよね。例えばボールは正面で取れと言われていたのに対して、「正面だと見えづらいし、腕は肩から横についてるんだから、横で取ったほうがいい」という持論を展開しました。理にかなっていないことをバッサバッサ切っていった人、という印象があります。

岡部 スポーツ脳科学プロジェクトという研究のお仕事で、桑田さんと研究をしているメディア情報学の先生とご一緒しているんです。その先生に、桑田さんと岡部さんは似ている、と言われたことがあります。

7年後には、ドリブルデザイナーを卒業する

石川 岡部さんはサッカー界の桑田なのかもしれませんね。もしくは逆算デザイナー。

岡部 ドリブル要素が消えましたね(笑)。あ、でも僕は将来的に、ドリブルデザイナーを卒業したいと思っているんですよ。

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石川善樹

予防医学研究者であり、論文を読むのが趣味という石川善樹さんは、cakesを運営するピースオブケイクに遊びにくると、最新科学のさまざまなトピックについて熱く語ってくれます。その話があまりにも面白いので、いっそのこと連載にしようということ...もっと読む

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コメント

kurobuchi_genki 本当そうなんだよな。自分の範疇だけのアウトプットはアウトプットじゃないんだよ…=> 2ヶ月前 replyretweetfavorite

marumado22 この対談を読んで「◯◯なんて、前から思ってたよ!」ということがある人は、今すぐ立ち上がりnoteで発信してほしい。 …ガタッ noteユーザーが立ち上がる音が聞こえました(たぶん幻聴 https://t.co/q5GQI7H6eR 2ヶ月前 replyretweetfavorite

yaiask ドリブル、将棋、野球の桑田、そして理論物理学者のリサ・ランドールにたどり着くという展開(笑) 2ヶ月前 replyretweetfavorite

takerui “22517” https://t.co/jJD8Tzc87l 2ヶ月前 replyretweetfavorite