モテに火をつけ、白痴になれ

世の女性たちがなんとなく共有する、誰もが知るおじさん著名人たちへのファジーな嫌悪感の正体に迫る本連載「ニッポンのおじさん」。
第14回は、東京大学卒の男について。彼らには何が欠落しているのか。そして彼らはなぜモテるのか。『多動力』がベストセラーとなった堀江貴文さんを挙げ、東大男と「モテ」の関係を考えます。


東大男の悪口がお好き

 東大の入試に受かると変な小部屋に連れて行かれて目玉の横から頭の中にスティックを突っ込まれてガチャガチャ脳内をいじられて、弱者にも生きる権利はあるとか、コンプレックスが人を豊かにするとか、負けることで学べることがあるとか、脳内に膿のように溜まったそういった寝言を除去された上で二度とそんな負け犬理論に耳を傾けないよう強力な消毒液を注入される、名付けて東大ロボトミーなんていう逸話を、今即席で考えちゃうくらいには、私は東大男が好きである。正確に言うと東大男自体は別に好きじゃないけど、東大男に法則性があるという前提で話をするのが好きで、簡単に言うと東大男の悪口を言うのが好きだ。

 最近テレビでも現役の東大生にフィーチャーしたクイズ番組やトーク番組が目立つので、多分私のような人間は多数派なのだと思う。人は別に誰かを褒め称えたいから惰性でテレビをつけたりするのではない。誰かの悪口を言うためになんとなく見ていたい。それで、加藤紗里のおっぱいはシリコンだとか、PUFFYは歌が下手だとか、貧困女子高生が貧困じゃないとか言いながら生きている。ただ、高度にポリティカルに発展した世界では、気軽に悪口を言える相手というのはかなり限られる。弱者やマイノリティの悪口は言えないし、微妙なものの悪口を言うとすぐにツイッターで議論が起きるし、ちょっとした悪口が身を滅ぼす失言になりかねない。

 だからこそ、私たちは……というか私は盤石なものを求めている。悪口を言っても差別にならない、バカにしても蔑視にならない、貶められて汚れもへこたれも怒りもしないもの。そういう悪口を寄せ付ける懐の深さがあるのは、やはり早稲田でも青学でももちろん日大でもなく東大の男で、こちらがいくら悪口を言っても見下した発言をしても、負け犬の愚民達が何か下界でわちゃわちゃ言っておるわ、と雲の上のデラックススイートで扇子片手に鼻で笑っていそうなところが、またなんとも悪口を言いたくなるところでもあり、悪口を言って許される根拠でもある。

『彼女は頭が悪いから』にみる東大男の欠陥とは

 そんな法則に則って言うと、姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』はまさにそういう叩いても良いものとしての東大男を叩き、逆説的に東大男の持つ特権的な魅力を最大限生かした小説となっていた。同作品は実際にあった現役東大生による暴行事件をモチーフにしたものなのだが、物語の主柱を担う東大の男の子たちについて「つばさは人の情感の機微について考える性質ではない。彼はまっすぐ健やかな秀才なのだ」「そんなことに関心を向けないような時間の使い方をつばさは自分の習性としてきたから東大に合格したのである」「星座研究会のメンバーはみんな優秀な理1出なので、そんな陰影はロースペックの証でしかない」と、軽快に小気味好く小馬鹿にする。そんな表現は東大男の盤石さあってのものだが、その前提を持ってしても言い得て妙である。

 東大の男は人の気持ちがわからない、エリート人生爆進中の男は女を人として尊重しない、というようなことはよく言われることで圧倒的に正しくて私も深くアグリーするが、正直、だからと言って亜細亜大の男に人の心の機微がわかるかと言われれば微妙だし、日大の男に女の複雑さがわかるかと言えばそれもまた微妙だし、慶應の男が女を人として尊重するかと言えば別にそうでもない。なんなら国士舘大の男だって集団レイプをするし、綾瀬のヤンキー男だって女子高生をコンクリ詰めにしたりするし、早稲田男だって組織的に輪姦したりする。

 では、それでもやっぱり東大の男だからこそ人の気持ちがわからない、と言われる根拠は何か。半分は、東大の悪口なら言いやすいというこの国の傾向に依拠するものだろうが、もう半分はおそらく、彼らに何かが圧倒的に欠如しているからだ。では何が欠如しているか。コンプレックスではない。挫折の経験でもない。彼らの多くは鈍足で服がダサくニキビのケアなどに時間を割いていないため、小学校や中学校のバレンタインや体育祭で結構なコンプレックスと挫折を蓄積している。人の悪口と男のネガキャンが死ぬほど好きな私の偏見にまみれた分析によると、彼らにないのは「生きていてごめんなさい」という気持ちである。

 学習院や慶應にもそう言う「生きていてごめんなさい」なんて微塵も思っていなそうな男は結構いるが、それでも彼らにほんの少しだけどボンボンであるとか受験勉強をしていないとかいう自虐がある反面、東大の男はなまじ紛うことない実力でその地位を得ている(と少なくとも彼らは思っている)ため、そういったわずかに残る人間味のようなものもない。そしてこの清々しいほどの「ごめんなさい」感のなさが彼らを一気にモテの道に誘っている。

モテる人には罪悪感がない

 東大の男はモテる。中高時代、こと色恋関係において全く日の目を見なかったような見た目完全のび太くんであっても、多少脇が臭くても、出っ歯でしゃくれで虚弱体質でも、割とモテる。それは何も、彼らが東大というプラチナカードを得たから、というだけではない。女もそんなにバカじゃないし、東大と同じくらい素敵なカード、例えばお金とか医師免許とかを得てもモテない男は結構いる。だいたい、東大を出ても宗教団体に入ってサリンなんて撒く男だっているし、東大で博士号を取ってもiPS細胞で移植手術しましたなんていう世紀の大嘘をつく男だっている。とみんなが思っているので、それだけで女が寄ってくると思っているのなら世の非東大男は卑屈すぎる。

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ニッポンのおじさん

鈴木涼美

どこか物悲しく、憎めないおじさん。男にリスペクトされる好感度高い系おじさん。こじらせおじさん。新しい価値観で社会を斬るおじさん。そして日本社会を動かすおじさん。彼らはなぜ〈おじさん〉になってしまったのか。彼らの何が〈おじさん〉たる所以...もっと読む

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コメント

yukihgs モテる人とは、一対一がよしとされる関係性において、一対多の非対称であることに罪悪感がない人。 約1年前 replyretweetfavorite

megamurara 「幸せ」と「楽しさ」は違う。なるほど納得。 約1年前 replyretweetfavorite

shigatsunoyume 鈴木涼美さんの文章面白いな。 約1年前 replyretweetfavorite

c51125 これを読むと私がモテと無縁なのはこういうことか!と納得したものだった・・・。 約1年前 replyretweetfavorite