── 新庄さんは現在バリ島在住ですけど、どんな暮らしをしているんですか?
新庄 ごく普通の生活。自分でATMからお金を下ろして、スーパーに行って買い物もするし、そのスーパーで洋服も買ってる。3000円くらいの。
── へー。いつもブランドの洋服を着てるイメージがありました。
新庄 スーパーで買ってきた服に自分で手を入れて、小物が入るポケットを付けたりしてる。サングラスも600円とか。ブランド物で着かざるよりも、「新庄が着るとブランド物に見える」のほうが格好いいでしょ?
── それ、いちばん格好いいやつですね。
新庄 で、マックとかケンタッキーみたいなところで、ジュース飲んだりしてるの。そんなふうに過ごしていても、「あ、新庄だ!」とか言われないし、気がラクなんだよね。
楽しいことをして、お金をやりくりする毎日は幸せ
── そんな毎日の中で、新刊『わいたこら。』では、バリ島の子どもにだまされたエピソードを告白しています。
新庄 そう。サーフィンをしていたら、たまたま「サーフィンが好き」という子に出会って、いいやつだったから「じゃあサーフボード買ってあげよう」と。一緒にバイクに乗ってお店に行き「どれでも好きなのを選べ」って言ったら、4万3000円くらいするやつを指さした。
── 結構高い……。
新庄 インドネシアの月給って1万2000円くらいだから、さすがにオレも「えっ?」て思ったけど、今さら「もっと安いのにしておけば」なんて言えない。
── 見栄をはってしまったわけですか。
新庄 その子、その場では超喜んでいたけど、あとでもらったサーブボードを売ったという情報が入ってきた。よく聞いたら、その子サーフィンやらないんだって。ただお金がほしかったみたい。
── 20億円だまし取られたのに、まだ懲りてないじゃないですか!
新庄 買い物をしていて荷物がいっぱいになったんで、近くにいた女性に「タクシー呼んでくれない?」ってお願いしたの。そしたら、彼女の旦那さんがジープを運転して家まで送ってくれたことがあって。
── やさしいですね。
新庄 もちろん彼らは僕のことなんて全然知らないから、100%善意でやってくれてるの。なんか嬉しかったから、その場にあったバイクをあげちゃった。
── バイクって、結構な大盤振る舞い。
新庄 もう結構古いバイクだったし、余っていたから。でも、この話にもオチがあってさ。何日かたってから、その奥さんがオレの家にやってきて、「お金を貸してくれない?」って。オレがかなりのお金持ちで、頼めば何でもくれると思われちゃったみたい。
── やらかしてますねー。
新庄 でも、これって大金持ちの立場でやっているのとは全然違う。大金持ちがサーフボードとかバイクをプレゼントするときには、感情も何もない。ただ、お金持っている自分を自慢したくてやっているだけ。もしくは売名行為でやっている感じ。
でも、今のオレが人にプレゼントするのって、簡単なことじゃない。「あー、金庫の中には5万しかないのに、4万3000円のサーフボード上げちゃって大丈夫、オレ?」とか、そんなこんなの心の動きがあるわけだから。
── そういうのを聞くと、人間らしさが伝わってきます。
新庄 お金を損したとかトクしたとか、そんなのどうだっていいんです。その日1日、誰かを笑顔にさせられただけで満足だから。もう、それでいいかなって。オレって、死ぬまでこんな失敗を続けるのかもしれない。
── 新庄さんって、スターでありながら優しさにあふれてます。
打ちづらいのは、一軍に上がったばかりのピッチャー
新庄 そういえばさ、現役時代にオレがいちばん打ちづらかったピッチャー、わかる?
── メジャー時代のランディ・ジョンソンとか、全盛期の伊藤智仁さん? 意外に、敬遠球を打ったあとの槙原(寛己)さんがやりづらかったとか。
新庄 全部違う。実は、2軍から1軍に上がったばかりとか、家を建てたり、子どもが生まれたりした直後とか、結婚したてのピッチャーがとにかく苦手だった。
「オレ、ここで打っていいんだろうか? オレが打ったら、この子また二軍に逆戻りかな」なんて考え始めると、もう全然集中できなくなる。
── みんな必死ですからね。
新庄 タイガース時代のチームメイトで、タイガースをクビになって、テスト入団で楽天に入ったやつがいて。オレが日本に戻ってきて日ハムでプレーしていたとき、対戦したことがあったの。
もうだいぶ点差が離れている場面で、彼が登板させられたんだけど、バッターボックスから彼が口パクでこう言っているのがわかるんです。「新庄さん、お願いします」
── 打たないでくださいってことですか?
新庄 そう言われても、もちろん八百長なんてできないし、お互いに真剣勝負なんだけど、やっぱり動揺しちゃうわけですよ。そのときは、見事に三振に切って取られちゃった。
で、彼の顔を見たら、口パクで「ありがとうございます」って言ってた(笑)。 まあ、そのあとも彼は3年くらいはプレーしていたから、実力があったんだろうけどね。
── アメリカでの最終年、メジャーに再昇格しそうになったのに、別の選手を推薦したという話もありました。
新庄 そうそう。ギラギラした顔つきのマイナーの選手たちを見ていたら、オレなんかがメジャーに上がるの悪いなと思って。
結局オレは日本に帰っちゃったんだけど、そのとき推薦した選手が超活躍して何十億も稼ぐ選手になったみたい。
── 何か光るものがあったんですか?
新庄 昔から、そういうのはちょっと見たたけでわかっちゃう。あとになってその選手から人づてに「お礼を言いたいから会いたい」って言われたけど、別にいいや、って。もうどんな選手だったのかも覚えてないし。
── 優しいだけじゃなくて、神がかってます。
監督オファーの話はこないが、準備はできている
── ところで、もう一度大金を稼ぎたいとか、そういうモチベーションはないんですか?
新庄 最近、だいぶお金が減ってきたからね。そろそろ本腰入れて稼ごうかな、と思って。この『わいたこら。』という本の印税で2億くらい稼ごうかなと考えてたんですけど……。
── ですけど?
新庄 東京に来て街を歩いている人たちの背中を見てたら、なんかみんなめちゃくちゃさみしそうで、疲れている感じで……。「この人たちから儲けるのって違うかな」って思えてきちゃったんですよね。 なんなら、この本タダで配ってもいいかな、と。最終的にはお金どうこうよりも、ポジティブなメッセージを伝えることのほうが大事だし。
── とてもいい話です。
新庄 まあ、明日になったら、知り合いを片っ端から呼び出して、1冊10万円で売りつけまくるかもしれないけど。明日のことなんて誰にもわからない。人間ってそうでしょ?
── ……はい。最後になりますけど、野球界に帰ってきてほしいという話もよく聞きます。監督のオファーが来たらどうします?
新庄 そんなオファー全然来ない。もう野球にそんな興味がないし、野球の道具も全部処分しちゃったし。オファーが来ても、ね。
ただ、本気でチームを作るんだったら、有名選手が揃っていたとしてもレギュラーの約束はなし。ゼロからレギュラーを構想する。年俸3億円もらっている選手でも、勝てそうじゃなかったら外す。
── うわー、マジのコメントだ。ゾクゾクします。
新庄 でも、オレにオファーを出すような根性のあるオーナーは、今の日本には一人もいないと思います。そもそもオレがオーナーだったら、絶対にオファー出さないと思うし。こんな、何をやるかわからないやつ、使うわけないでしょ。
── ファンとしてはワクワクしますけどね。何をするにしても、これからの新庄さんのご活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました!
もう一度お金を稼ぐことにチャレンジしたいと意欲を見せる新庄さん。「お金持ちのリッチな生活がしたいんじゃなく、お金を稼ぐまでのサクセスストーリーをみんなに見せたいんだ」。そう言って笑う新庄さんを見ていると、期待せずにはいられません。
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