坂爪真吾
話し合っても絶対に分かり合えない相手と、同じ世界でどう共存していくか?
誰かをひたすら叩きつづける行為は、自分の「善意」や「正義」を後ろ盾にして憎しみを発散させている暴力にすぎません。連鎖するレイシズムを前に、私たちは何ができるのでしょうか? 他者とつながるために何を考え、行動していくことが必要なのでしょうか? 言葉は誰かを傷つけるためではなく、人生を照らすためにあるのだと信じたいあなたに。
●「見たら負け」の世界
厄介なことに、義憤は伝染します。義憤に基づいて特定の相手を「レイシスト(差別主義者)」と名指しして叩き続ける人たちの言葉や表現がどんどんエスカレートしていき、自らがその「レイシスト」と同じように差別的・侮辱的な言動をするようになってしまい、最終的に利用規約違反でSNSのアカウントを凍結される、という例は実際に起こっています。
「セカンドレイプ」という強い言葉で他者を批判している人たちが、公の場で特定個人や団体への根拠の無い誹謗中傷や侮辱を繰り返し、さらにそれをSNS上にアップして拡散するという「セカンドレイプ」を公然と行うこともあります。
哲学者のニーチェは「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」と述べています。私自身も、義憤に駆られるあまり、こうした深淵に堕ちた個人や団体を、これまでいくつも見てきました。匿名であることにかまけて、ネット上で我を忘れて特定個人や団体を叩くことに熱中し続けた結果、相手方に名誉棄損で訴えられた人もいます。当初の活動目的や理念を忘れて、同じ領域で活動する他団体をネット上で叩くことだけが活動の主目的になってしまっている団体もあります。
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この連載について
坂爪真吾
高校の三年間、友だちは一人もできなかったし、恋人も作れなかった。恋愛もセックスも何一つできなかった。一発逆転を賭けて東大を目指すも、センター試験は全教科白紙で提出。すべてから逃げ出した坂爪少年は「卒業式が終わったら、自殺しよう」と決意...もっと読む
著者プロフィール
坂爪真吾(さかつめ・しんご)
1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。
新しい「性の公共」を作る、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。
2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。
著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)など。