最終回】「無鉄砲」と言われても、走り続けろ

「さようなら、父さん。」人材派遣会社の営業マンとして働きながら、国民的アイドルグループの作詞もしていた楢崎淳也(ならざき じゅんや)。二足のわらじ暮らしで憔悴しきったところを、不可思議な宝石店主・蟹江に助けられ再起した。倒産の危機にあった派遣会社の社員を連れて起業し、半年。ようやくタイでの音楽事業に取りかかれるようになった今、淳也には終わらせなければならないことがあった。

illust:ひうらさとる

 タイ行きを延期して起業し、半年が経った。会社のキャッシュフローもうまくまわっている。先輩作詞家の尾形さんが社労士として僕の会社の顧問になるという嬉しいオマケつきだ。

 登場人物たちがおのずと動き出す歌詞世界のように、僕の現実もなりたいイメージを決めた途端、面白いように展開し始めた。もちろん、僕が行動しないと何も動かないから、どんどん動いた。たとえ「無鉄砲」と言われても走り続ける。

 ビジネスはあたかも音楽を作っているかのように熱中できた。そして、どんなに忙しくても土日のどちらかは湘南までSUPに通っていた。おかげで筋肉がつき、特に二の腕は逞しくなったという自覚がある。

 金にならないことはやらないと決め、何年もギターを止めていたけれど、最近、スタジオに入って個人練習をするようになった。いい気分転換だ。

 夢中でコードを紡いでいるうちに、メロディが導き出され、そのまま曲になることも多い。

 練習中に作曲が始まって以来、ストック曲が増えつつある。スタジオにいると、あっという間に二時間が経ち、いつも後ろ髪を引かれる思いで帰路についた。タイでのコラボが楽しみでしかたがない。以前に比べて楽しいことや好きな人が格段に増えている。

 自社で唯一の音楽事業部員として、ようやくタイに行ける時期が来た。その前にやるべきことがある。やっと覚悟ができたのが今日というわけだ。

 大きな黒い門扉の前に辿りつく。静子が面会に通っている北病棟に虎雄はいた。

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夜明けのポップス

藤瀬聖子

主人公の楢崎淳也(ならざきじゅんや)は、人材派遣会社で営業として働きながら、人気アイドルグループの作詞も手がける作詞家。しかし二足のわらじ生活は、彼の心身を徐々に蝕んでゆく。そんなおり、訪れた箱根の山中で不思議な女性に出会い……。嵐、...もっと読む

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コメント

marikosatoru 嵐、KAT-TUN、EXILE TRIBEなどの作詞家、藤瀬聖子さんの初小説、最終回です!イラストはひうらさとるです。 1年以上前 replyretweetfavorite

masancofujise たくさんのご愛読、本当にありがとうございました! 1年以上前 replyretweetfavorite