illust:ひうらさとる
いつのまにか、ソファで眠ってしまっていた。
突然、夜を貫くような轟音と、壁にまで届く稲光で目を覚ます。蟹江たちはそれぞれの部屋に戻ったようだ。僕にタオルケットをかけてくれたのはパテーか。
「山の天気は変わりやすい」と蟹江から聞いていた通りで、穏やかだった昼とは様相が変わっていた。雨が窓を打ち鳴らし、だんだんと間隔が短くなる落雷の音に、僕は雷が大嫌いだったことを思い出す。
僕は雷の音が怖くて、ぺしゃんこの布団をかぶっていた。雷鳴に負けないほどの怒号がして慌てて台所へ駆けつけると、虎雄が居間にある簡易テーブルを蹴飛ばしたところだった。
「俺がこんな目に遭うのはお前たちのせいだ」と静子と未知香に言いがかりをつけている。宿題をしていた未知香に「女は勉強なんていらんことするな」と怒鳴った。目つきが気にいらないと手をあげようとして、すぐに母さんがあいだに入ってかばう。
「俺の邪魔ばかりしやがって」と母さんは壁に頭を押しつけられた。稲光に写し出された母さんの顔はまるで能面のようだ。
家で嫌な思いをすれば、布団の中に身を隠す。幼い頃から、常夜灯を消して眠ることができなかった。布団から顔を出した時にも暗闇なのは耐えがたいから。僕も未知香も長年同じ寝具に潜り続けていて、それはボロボロだった。
突然、リビングが真っ暗になってしまった。鼓動が迫ってくる。タオルケットをかぶってみたものの、薄すぎて心もとない。
地底の奥深くに杭を打ち込むような爆音が続く。すぐそばに落ちた衝撃とともに、閉じた瞼を突き破って閃光が襲ってきた。
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