依存心のぶつけ先を探して彷徨う「イゾンビ」たち

人材派遣会社の営業マンとして働きながら、国民的アイドルグループの作詞もしている楢崎淳也(ならざき じゅんや)。二足のわらじ生活で衰弱した淳也は、不可思議な宝石店主・蟹江に助けられて再起する。ある日、蟹江は淳也に「最後は自分で起き上がること」を伝える中で、自己啓発セミナーで出会った「イゾンビ」たちについて話す。(毎週月曜日更新)

illust:ひうらさとる

 寝返りを打つと腕の痛みがある。筋肉痛のおかげで何度か目が覚め、体を起こして壁時計を見るともう正午近くになっていた。

 あわててリビングに行ったところ、今日は夕方まで蟹江とパテーは外出をしているようだ。大きな皿にまとめられた食事と置き手紙がある。

 野菜を収穫しておいて欲しいということだったので、食後、太陽の光がふりそそぐ蟹江菜園に行って、珍しい白い茄子や五十センチはある胡瓜や果実のようなトマトをカゴいっぱいに採ってきた。荒療治かもしれないが、体を動かすほど痛みはやわらいでいく。

 男手がなくても大丈夫そうな蟹江ハウスだが、電球を替えるようにという指示があったので、それにも従った。

 作業後、ゆっくり珈琲をいれて部屋に戻る。

 昼間からベッドでごろごろしながら考えるなんて、僕の日常にはなかった行為だ。洗いたてのシーツを肌で感じながら無駄に転がる。窓から入ってくる陽射しを寝そべりながら体で受け、じわじわと内側から気力がわき上がるのを感じていた。

 蟹江ラボの威力は凄いのかもしれない。

 早く行動を起こしたいという気持ちになってきている。怠惰なポーズをしながらも頭の中はいつになくクリアだ。蟹江が言う通り、新しく始めるには古いものが足枷になりかねない。行動するためには、今までやってきたことをやめる必要がある。

 いつのまにか、窓の外の日差しは弱まっていた。壁時計が午後五時をさした瞬間、遠くから車のエンジン音が聞こえて、少しして止まった。

「トントントン!ヤマ!」
蟹江が張りきってドアを叩いている。
「はい、どうぞ」
「ええーっ、それ、合言葉になっていないじゃない」
不服そうにドアを開けて入ってきた。

「なんだかこの部屋、気がこもってる。窓を開けようか。もったいないよ、天然の風を浴びないと。夕方の風がさ、気持ちいいんだ」

 がしゃんと取っ手を外に突き出すようにして窓を全開にし、網戸だけをこちらに引き寄せて森から風を招き入れた。

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夜明けのポップス

藤瀬聖子

主人公の楢崎淳也(ならざきじゅんや)は、人材派遣会社で営業として働きながら、人気アイドルグループの作詞も手がける作詞家。しかし二足のわらじ生活は、彼の心身を徐々に蝕んでゆく。そんなおり、訪れた箱根の山中で不思議な女性に出会い……。嵐、...もっと読む

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