大谷翔平は純粋な「野球少年」のまま

「とにかく、彼はアメリカへ行ってお金を稼ぎたいから行くのではなく、自信があるから行くのではなく、純粋な野球少年のまま。『挑戦したい』からアメリカへ行く。その一点だけだと思います」大谷翔平の恩師である花巻東高校の監督・佐々木洋の目には教え子の姿はどう映っているのか? 『道ひらく、海わたる ~大谷翔平の素顔~』に明かされたメジャー挑戦への決断の理由とは。

●純粋な「野球少年」のまま

 プロ野球という世界に身を置く道半ば、大谷はメジャーへの思いを心の奥にしまい込んでいた。多くを語ることはなかったし、語る必要もないと思っていた。「その瞬間」が再び自分を求めてくるまで、思いへの熱は絶やさずとも、ただ静かに待ち続けた。

 思えば六年前。大谷は、表情にこそ冷静さを保っていたが、昂る思いを「メジャー挑戦」という言葉で表した。そこには、汚れのない真っ直ぐな、何物にも左右されない「18歳の決断」がたしかにあった。

 高校時代の決断と22歳のそれには、何か大きな違いはあったのだろうか。

 花巻東高校の監督である佐々木洋の目には教え子の姿はこう映っている。

「高校時代にメジャーへ行きたいと思った気持ちと、今このタイミングで行きたいと思った気持ちは、大谷の置かれた立場も違いますし、ちょっと違うと思います。ただ彼の本質として、『大谷翔平の生き方』というのはまったくブレていない。五年以上が経っても、何らブレていないと思います。エンゼルスへの入団を決めたときも、たとえば一般的には選手の評価の一つとなる金銭面で選ぶことはなく、彼自身の『生き方』でチームを選んだと思います」

 佐々木監督は、右足首の怪我によって苦しんだ大谷の二〇一七年シーズンの状況を考えれば、23歳でのメジャー挑戦を素直に受け入れられない時期もあった。「早くアメリカへ行ってほしい」。そう思う一方で、ピッチャーとしてもなかなか結果を出せなかった現実を考え、あと一年、ないしは二年は日本でプレイしたのちにメジャーへ挑戦してもいいのではないか。二〇一七年のシーズン中も大谷と電話で話す機会があった佐々木監督は、自身の素直な思いを大谷に伝えたこともあったという。

「ちょっとだけ話したことがあったんですよね。夢も大事だし、チャレンジも大事だけど、現実として一人の人間、大人としての生活もあるという話を。怪我があった。そのなかでボールの素材が変わり、日本と比べてマウンドが固いアメリカでは体への負担が大きくなって肩肘を壊すリスクもある。ピッチャーとして二〇一七年は特に成果が出なかったし、オフには右足首の手術もある。また、アメリカへ行ってから野球以外で怪我をする可能性もある。野球ができなくなることもあるかもしれない。あらゆるリスクを考えたとき、もうちょっとじっくりやってからアメリカへ行っても遅くはないんじゃないかということを大谷に言ったことがありました。私は、人生も考えて最終的な判断をしたほうがいいのではないかと思っていました。でも、本人はとにかく『行きたい』と言う。あとになって、大谷に心配事ばかりを言ってしまったと私自身が恥ずかしくなりましたけど」

 照れくさそうに笑ってそう話すが、佐々木監督の行動はまさに親心のようなものだった。

長い人生においては何が起こるかわからない。アメリカで怪我をして選手生命が絶たれる可能性がないとは言い切れない。交通事故に合わない保証もない。そんなリスクばかりが頭を過ってしまった。子を持つ親なら、だれもが我が子の行く末を案じるのは当然だ。佐々木監督も、当時の会話はそんな心境だったと話す。

 しかし、大谷の思いは強かった。意志に導かれて決断したものは揺るがなかった。そんな教え子を佐々木監督はこう表現するのだ。

「僕には、『野球少年』にしか見えないですから、大谷は」

 何の曇りもない真っ直ぐな思い。今、行ってみたい。今、自分を試してみたい。その思いに突き動かされて前へ進もうとする大谷が、教え子ながらに眩しく見えた。佐々木監督は言う。

「自信があるとかないとか、活躍できるとかできないとか、大谷本人は考えていないんでしょうね。ただ、行って挑戦してみたい。高い所へ自らの身を置きたい。いつもそう考えているんだと思います。とにかく、彼はアメリカへ行ってお金を稼ぎたいから行くのではなく、自信があるから行くのではなく、純粋な野球少年のまま。『挑戦したい』からアメリカへ行く。その一点だけだと思います。高校のときも、野球少年が純粋にアメリカへ行って挑戦したいと言った。それは今でも変わらない。メジャーへ行ってピッチャーとしてすぐに抑えられないかもしれない、結果を出すことができないかもしれない。本人もそう思っているかもしれない。それでも『行く』と決めた。そして、大谷本人の生き方が貫ける球団を彼は選んだのだと思います」

 栗山監督と同じ感覚を、佐々木監督もまた抱くのだ。

この連載について

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道ひらく、海わたる ~大谷翔平の素顔~

佐々木 亨

「僕のこれまでが詰まった一冊です。」――大谷翔平 「メジャーのトップに行きたい。 長く野球を続けたい。 何か新しいことを、他人がしたことのないことをやりたい」ーー 幼少期から高校・プロ野球時代、メジャーまで、その軌跡と裏側を...もっと読む

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asyara28 #スマートニュース 4日前 replyretweetfavorite