第237回 巡り回る群れ(前編)

「この定義には《ぐるっと回る》イメージは何もありませんね……」というテトラちゃん。いったい何を考えてるの?「群とシンメトリー」シーズン第4章前編。

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。

リサ:自在にプログラミングを行う無口な女子。赤い髪の《コンピュータ少女》。

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図書室にて

テトラちゃん、そしてミルカさんは図書室で《群》についておしゃべりしていた。

リサは一言だけいうと、少し離れた席でコンピュータを無言で操作している(第236回参照)。

テトラ「要素が$4$個ある群は一種類とは限らないというのはわかりました。ところで話を戻しちゃうんですが、 集合の要素がトランプでも、 東西南北でも、 サイコロの置き方でも、 $\sin\theta$を微分したものでも、 $0,1,2,3$を使ったものでも、 《同じ群》といえるんですね。 ぐるっと回ってくるところが《同じ》に感じます」

「もちろん、演算表も《同じ》になるね」

ミルカ「$\{1, i, -1, -i\}$も《同じ》だな。虚数単位$i$が生成する群だ」

虚数単位$i$が生成する群

台集合: $\{ 1, i, -1, -i \}$

二項演算: 複素数の積

テトラ「ああ、確かに《同じ》ですねっ!」

「確かに、$i$を忘れちゃいけないなあ。これは、$i^0, i^1, i^2, i^3$ということだね」

ミルカ「ふむ。演算表で$1$と$-1$のみに注目すると、こうなるな」

$1$と$-1$に注目した演算表

テトラ「そうですね。$-1$に注目すると、$$ \begin{align*} &1 \MUL 1 = 1 \times 1 = 1 \\ &1 \MUL (-1) = 1 \times (-1) = -1 \\ &(-1) \MUL 1 = (-1) \times 1 = -1 \\ &(-1) \MUL (-1) = (-1) \times (-1) = 1 \\ \end{align*} $$ という四通りだけです」

ミルカ「$-1$に注目するというのは、《$i$が生成する群》の部分群を作っているともいえる」

テトラ「部分群……部分集合ですか」

ミルカ「部分群。二項演算のことを忘れて台集合だけに注目するなら、部分集合でいい。 部分集合が同じ二項演算に対して群をなしていたら、部分群という」

虚数単位$i$が生成する群

台集合: $\{ 1, i, -1, -i \}$

二項演算: 複素数の積

↓部分群

$-1$が生成する群

台集合: $\{ 1, -1 \}$

二項演算: 複素数の積(実数の積)

「《$i$が生成する群》はサイコロの回転でいえば$90$度の回転に対応して、《$-1$が生成する群》は、$180$度の回転に対応するといえるね」


ミルカ「《$i$が生成する群》も《$-1$が生成する群》も、どちらもたった一つの元から生成される群といえる。 そういう群を巡回群(じゅんかいぐん)という」

テトラ「はいはいっ! 巡って回ってくる群ですねっ! ぐるっと回ってくる群です」

ミルカ「テトラは《ぐるっと回る》という表現が好きだな。巡回群の定義はこうだ」

巡回群

$G$を群とし、$g$をその元の一つとする。

群$G$の任意の元$a$が、ある整数$n$を使って、 $$ a = g^n $$ で表せるとき、群$G$は巡回群であるといい、 $$ G = \GGEN{g} $$ と書く。

また元$g$を群$G$の生成元(せいせいげん)という。

ただし……

テトラ「えっ!!  これが巡回群の定義なんですか?」

「テトラちゃんは何に驚いているの?」

テトラ「サイコロの回転でも、$i$の積でも、《ぐるっと回る》イメージがありました。でも、この巡回群の定義には《ぐるっと回る》イメージは何もありませんよね……だって、 この定義では、どの元$a$も、 $$ a = g^n $$ と表せるとしか言っていませんから。これで《ぐるっと回る》というイメージの群になるんでしょうか」

「定義には出てこないけど、よく考えるとそのイメージは出てくるよ」

ミルカ「……」

テトラ「ちょちょっ、ちょっとお待ちください。いまテトラの中では《わかってない注意報》が鳴ってます!」

ミルカ「テトラは、自分が抱いた疑問を明確に述べる」

ミルカさんは、そう言ってテトラちゃんを指さした。

テトラ「えっと……あたしは、群の定義を理解していたつもりでした。台集合と二項演算、単位元に結合法則に逆元を使った定義のことです。 それから巡回群についても以前お聞きして、何となくわかっていました。 《$i$が生成する群》を見ながら、確かにぐるっと巡り回ってくる巡回群だと思っていました。 でも、ミルカさんの巡回群の定義からは《ぐるっと回る》イメージは出てきません。それが腑に落ちない点です」

ミルカ「君は、テトラの疑問に適切な問いかけを投げる」

ミルカさんは、そう言ってを指さした。

「《適切な問いかけを投げる》って……ねえ、ミルカさん。ミルカさんは最近、そういうメタ・アドバイスをよく言うよね。 その一言でハードルがいきなり上がるんだけどなあ」

ミルカ「ハードル上げが、ひそかなマイブーム」

ミルカさんは、そう言って自分を指さした。

テトラ「あの、それで……」

「うん、テトラちゃんの言う《ぐるっと回る》イメージを群の言葉で表すとしたらどうなると思う?」

テトラ「《ぐるっと回る》イメージを群の言葉で表す……」

「たとえば」

ミルカ「ヒント早すぎ」

テトラ「大丈夫です」

テトラちゃんは、両方の手のひらをに向け、《大丈夫》のジェスチャ。

テトラ「ヒントはなくても大丈夫です。あたしが思い描いている《ぐるっと回る》イメージを、群の定義に出てくるような数学的表現を使って表すということですね」

「そうそう」

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コメント

chibio6 生成元のところが難しかった。g^-1が-n個という表現はn個の間違いではないかと思ったのだけれど、定義だからそれでいいのかもとも思い、…迷う。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

kazzzarion 第236回のときも思ったけど,群やってるとでてくる素数がすごく不思議。上手く言葉に出来ないのが辛い 2ヶ月前 replyretweetfavorite

heliac_arc そういえば無限位数の巡回群は「巡回」してないな… 元々は有限位数で巡回群が定義されて、それがのちに無限位数に拡張されたのかも 2ヶ月前 replyretweetfavorite

asangi_a4ac ぶな? https://t.co/ftxeskAqbk 2ヶ月前 replyretweetfavorite