中島岳志(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授)、枝野幸男(立憲民主党代表)
憲法論議を二元論にしない
中島 「改憲か護憲か」という二元論は、ほとんど意味もないレッテル張りだと思っています。立憲主義は、国民の側から憲法によって権力を縛るという考え方です。だとすれば、時代の変化の中で、よき縛り方をするための、よりよい条文考え続けるのが本来的な憲法論であるはずです。左派の側は一言一句変えないことを「リベラル」だと思いこんでいますが、それは権力の暴走を許す結果になるかもしれない。
たとえば、枝野さんも言及されているように、首相に衆議院の解散権を認めている憲法7条は、国際的にも異例の制度です。だから強引な解散ができてしまう。それを改定するのは、権力に対する抑止にもなり、リベラルな態度だと言えるでしょう。枝野さんは長らく憲法をご専門にされていますよね。
枝野 もともと弁護士で、大学では憲法ゼミに所属していました。実は、国会議員として初めて選挙に出た時、とても困ったんですよ。マスコミが候補者に「憲法改正に賛成ですか反対ですか?」とアンケートを取ります。これって答えようがありません。良くなるなら賛成だし、悪くなるなら反対です。一貫してその回答を続けています。この二元論には本当に苛立ち続けています。
ただ私たちの世代は二元論ではない最初の世代の政治家であるとも思っています。私は二〇〇〇年から「衆議院憲法調査会」に参加していましたが、委員長で自民党の元衆院憲法調査会長・中山太郎さんとは、噛み合う議論ができました。しかし安倍首相になってから、憲法論議が二元論に戻されてしまった。議論の明らかな劣化です。
憲法9条改正、政治の現場のリアル
中島 私は9条は変えた方がいいと思っています。自衛隊もちゃんと明記するべきです。しかし、憲法を守らない状態で安保法制ができている今、違憲部分はしっかりと是正した上で、改憲の議論をするべきです。違憲の安保法制に合わせる形で憲法改正をしたら、完全な立憲主義の崩壊になってしまう。これは大変恐ろしい事態です。
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