「この距離はねぇだろう!!
世界がこんなに遠いハズはねぇ!!!」
コンフェデレーションズカップ2013、日本は開幕戦でブラジルに0-3で負けた。あまりの完敗ぶりに、僕は海上レストランでゾロが鷹の目のミホークに斬られる『ONE PIECE』の名場面を思い出してしまった。(わからない人、ごめんなさい)
今回は昨年10月の親善試合を0-4で落とした試合とは内容が違う。日本は手も足も出なかった、何もできなかった。一夜明けても悔しい。もう、虚しい気持ちのほうが強いくらいだ。特に3点目は日本サッカーの心を折った。ブラジルはそういうチームだ。相手に絶望感を与えるような勝ち方をする。
日本の攻撃は味方のサポートを欠いて個人が孤立し、本田圭佑が1人で運んで奪われる、清武弘嗣が囲まれて奪われる、このようなシーンが増えていった。
「W杯優勝」という言葉が影響しているのか、ブラジル戦に限らず、最近は自分にできないプレーまでやろうとして空回りする選手も目立つようになった。典型的なのは長友佑都だ。なぜそんなに中央に入りたがるのか、正直、僕には理解できない。香川真司に背後のカバーをさせて、長友が中央へ攻め上がる。だけど、そこで長友に何ができるのだろう。むしろ自己中心的なプレーではないかと僕の目には映る。エースであるサイドハーフの特長を殺す選手は、どんなに個人が優れていてもサイドバックとしては失格だ。
W杯優勝という志を持つことは大切かもしれない。しかし、そのために自分の足元が見えなくなるのなら、そんな目標は持たないほうがいい。
シュトゥットガルトでプレーする岡崎慎司は、昨シーズン、チームがヨーロッパリーグを戦って勝ち進んだとき、「優勝を目指す」とチームメートに宣言したが、逆にチームメートからは「滅多なこと言うな。そんな出来もしないことを言って、失敗したらどうするんだ。チームがバラバラになるぞ」とたしなめられ、困惑させられたことがあったらしい。
岡崎の気持ちはよくわかるが、ドイツ人のほうが大人だ。彼らはチームが生き物であることをよくわかっている。高すぎる目標と現実の乖離は、試合で失敗をするたびに「こんなんじゃダメだ」と自身を焦らせ、個人プレーに走らせる。その結果、できないプレーを遮二無二やろうとして、今までに出来ていたプレーさえ発揮できなくなる。完全に悪循環に入っている。
最近のザックジャパンは選手同士でも少しギクシャクしているように感じる。後半29分にセンターラインを少し超えた辺りで獲得したフリーキックの場面では、前線へボールを放り込もうとする長谷部誠と、クイックリスタートでパスを回そうとする遠藤保仁の間で意思が食い違い、ピッチ上で両手を広げて仲違いする場面も見られた。
もう、ブラジル戦は考え得る中でも、最悪の負け方だったと思う。
ザッケローニは戦術に細かい指揮官だが、チームがうまくいかなくなったときには、「選手がやりやすいようにプレーしなさい」と、選手に対して譲歩するタイプの監督だ。過去のクラブでも同様のシーンはあった。
しかし今、本当に必要とされているのは、監督が選手に譲歩することだろうか。むしろ、個人プレーに走ってサポートに走らない選手たちを厳しく引き締め、日本の足元をしっかりと照らしてほしいと僕は思う。
イタリア戦とメキシコ戦で改善が見られず、敗北を重ねるようなら、ザッケローニ監督とはブラジルでお別れしなければならないだろう。今はヨーロッパがオフシーズン。優秀な監督をフリーで獲得するチャンスでもある。当然、原博実技術委員長もリストアップくらいはしているはず。もし、それもしていないのなら、委員長も解任されなければならない。
ザックジャパンは正念場を迎えていると思う。
……というのは僕がそう思っているだけで、ファンを含めた全体的にはあまり危機感はないのかもしれないが。どうなんだろう。
日本がやりたかったこと。
『10番清武』構想
さて。ここまでは居酒屋で呑んだくれる怒りオヤジのように厳しく書いてみた。ちょっと言い過ぎかもしれないけど、居酒屋サッカー論なので許してほしい。
その一方で、この試合で日本がやろうとしたことにも触れておきたいと思う。
日本がチャレンジしたことは何か? それは『10番清武』構想だ。10番という表現はいろいろな解釈がありそうだが、つまり、決定力のある香川や本田をゴールに近い位置でフィニッシャーとしてプレーさせ、清武がチャンスメーカーになって攻撃を組み立てるということだ。チャンスメーカーよりも『10番』のほうがキャッチーなので、ここでは『10番清武』構想と呼んでいるけれども。
この件については6月10日発売の『サムライサッカーキング』の原稿でも書かせて頂いたので詳しくは割愛するが、今までのザックジャパンは左サイドで香川が組み立ての起点になることが多かったため、それを右サイドへ移すことがポイントになる。
それを成し遂げるため、ピッチ上には重要な変化が表れていた。それは遠藤と長谷部のポジションチェンジだ。普段は左サイド側が遠藤、右サイド側が長谷部というボランチの配置だが、これが逆になる場面がたびたびあった。
僕が手元でメモを取った中では、最初にポジションチェンジが行われたのが前半15分。そして21分には元の形へ戻り、さらに23分にはもう一度逆の配置にしている。それ以降も何度かあったような気はするが、僕がメモを取ったのはここまで。正直、現地に来ていると映像を確認できないのが辛いところ。
さて、このポジションチェンジにはどのような意味があるのか?
もうお分かりとは思うが、日本の攻撃をコントロールする司令塔の遠藤を右サイド側へ移すことで、『10番清武』をサポートする体制を取り、右サイド中心の攻撃を組み立てる。すると最終的に香川が左サイドから中央に入り、ゴール前でフィニッシュに絡みやすくなるわけだ。
その狙いはいくつかの場面で成功しかけたが、完成度はまだまだ低い。機能しなかった理由の一つは、コンディションだ。清武はここ数試合でもあまりコンディションが良くなく、ブラジル戦でも「守備に走り回らされ、疲労した」と試合後に述べている。その結果、後半開始早々にザッケローニは清武をベンチに下げた。
そしてここからが重要なポイントだ。この試合では、カウンターになりかけた惜しい場面から、「清武のスルーパスさえ通っていれば…」という場面がたくさんあった。みなさんも覚えているだろう。しかし、それらはことごとくブラジルの守備に引っかかり、インターセプトされた。
「なぜ、清武の勝負パスは通らないのか?」
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