鎌倉の家

鎌倉の「スタバ」にはわざわざ訪ねる価値がある

高い天井には太い梁、客間には囲炉裏、 庭に咲き誇る四季の花々、そして家族の食卓――。築90年、風情ある日本家屋で育った甘糟りり子さんが、鎌倉の魅力を美しく鮮やかに描き出します。

街が変わっていくことも悪くない

 大きなお屋敷が主を失い、荒れ果てた後に取り壊され、いつの間にかそこには新しい家が四軒も五軒も建っている。たいていサンタフェ風だったりハワイ風だったりの、やたらとぴかぴかした家だ。鎌倉では時々こういう光景を見かける。その度に失われていく過去が愛おしくなり、胸が痛む。保守的な私は変化というものが怖い。慣れ親しんだ街の景色が変わっていくと不安になる。

 けれど、鎌倉駅のほど近く、鎌倉市役所の向かい側にあるカフェ&レストラン「ガーデンハウス」に来ると、時間がたつことも変わることも悪くはないかもしれないと思う。レストランの半分はテラスという造りで、奥の個室には大きな暖炉もある。インテリアの雰囲気はアーリーアメリカン調というのだろうが、これみよがしではなく、細部のさりげない装飾が全体の方向をささやいている。

 この店はかつての横山隆一邸の一角にある。『フクちゃん』で有名な昭和の漫画家だ。アトリエと自宅が同じ敷地内にあり、バー・スペースもあった邸宅は、漫画家や作家、編集者たちの社交の場だったらしい。その横山邸の跡地にできたのがガーデンハウスだ。柱や梁は手を入れつつも、建物の外見は当時のままだという。空間全体が木々に覆われていて、森の中にいるようだ。観光客がひしめく表駅と違って、地元の人が多い裏駅の落ち着いた雰囲気によく似合う(いつの頃からか、住人たちは、東口を表駅、西口を裏駅と呼んでいる)。

 ガーデンハウスでは、古い時間と新しい時間が折り重なっている。だから、くつろげる。古いだけでは退屈だし、新しいだけでもむなしい。

 ジャンルはアメリカ料理。アメリカ料理なんておいしいものではないという私の勝手な決めつけをくつがえされた。中でも、「鎌倉ハムステーキ ハニーマスタード」は大好きなメニューである。はじめて食べた時、今まで私はハムというものを見くびっていたなあと反省した。肉の中からダイナミックさを抽出して、形成し直したものをハムと呼ぶ、そんなことを思った。

 その他には、鉄板で出てくる分厚いハンバーグ、エスニックな味付けのサラダ、ふわふわで香ばしいパンケーキ等々、メニューのすべてが丁寧に作られている。

 ピッツァは、かりかりのほうではなくもちもちのタイプだ。マルゲリータなどの通常メニュー以外にその時々、季節の素材を活かした組み合わせがあって、「春菊のピッツァ」なんていうのもある。もちもちの生地の上にはチーズと春菊のみ。春菊をピッツァに使う発想には驚いた。

あの場所であって、あの場所でない
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鎌倉の家

甘糟 りり子
河出書房新社
2018-09-26

この連載について

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鎌倉の家

甘糟りり子

高い天井には太い梁、客間には囲炉裏、 庭に咲き誇る四季の花々、そして家族の食卓——。築90年、風情ある日本家屋で育った甘糟りり子さんが、鎌倉の魅力を美しく鮮やかに描き出すエッセイ。

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ririkong 更新されています。 27日前 replyretweetfavorite