鎌倉の家

鎌倉の秋は「面をかぶった男たち」が連れてくる

高い天井には太い梁、客間には囲炉裏、 庭に咲き誇る四季の花々、そして家族の食卓――。築90年、風情ある日本家屋で育った甘糟りり子さんが、鎌倉の魅力を美しく鮮やかに描き出します。

秋の訪れを告げる百鬼夜行

 鎌倉で一番好きな季節は、夏が秋に入れ替わるほんの数日間だ。残暑の中に時々ひんやりした空気を感じるわずかな時期に、いろいろな感情がわき起こる。夏が終わってしまう寂しさ、同時にやっと街が自分たちに返ってくるという安堵、そういう日常への懐かしさ……。最も感情が濃くなる季節だ。

 その季節に御霊神社の「面掛行列」は行われる。毎年九月十八日の午後。曜日は関係ない。

 爺を先頭に、鬼やひょっとこ、七福神のひとつである福禄寿にカラス、おかめといった面をした男たちが神社から出て、「力餅家」のある星の井通りを練り歩く。おかめの面は必ず、着物のお腹の部分をわかりやすく膨らませている。その後に続く女の面が常に扇子でおかめをあおいでいる。行列の前後には、弓や幟やお道具などを持った子供たち。神輿は出るが、威勢のよい掛け声はかけない。お祭りらしい屋台や縁日は出ず、全体的におごそかな雰囲気の中で、物事が進んでいく。

 それぞれの面はユーモラスで、その分だけ悲しみをかもし出し、どことなく不気味でもある。行列を見ていると、時空の隙間に放り込まれた気持ちになる。

 いつもはひっそりとしている通りが、この日ばかりは人であふれる。地元の人や外国人を含んだ観光客でごった返すのだ。一眼レフを抱えた人もたくさん見かける。

 散歩がてらに面掛行列を見にいくのは楽しみでもあり、私にとっては季節の入れ換えでもある。この日をもって、「夏と秋の間」という短い季節が終わるのだ。年によって、立っているだけで汗ばむ日もあれば、半袖だと肌寒いこともある。気候はどうあれ、私の暦では翌日からが秋となる。

 五穀豊穣祈願とされているが、面掛行列の由来には諸説ある。元々は八百年ほど前に鶴岡八幡宮で始まった。源頼朝が村娘を身ごもらせてしまう。その一家が頼朝の雑事をすることになり、出入りする際に顔がわからないよう面を被ったといういわれと、お詫びのために頼朝が年に一度だけ彼ら彼女らに無礼講を許したといういわれがある。どちらにせよ、行列のおかめが妊婦、扇子であおぐ女は産婆の役だ。百五十年ほど前から、鶴岡八幡宮に代わって、坂の下の御霊神社が催すようになったという。

落武者よりも会いたいお化け
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鎌倉の家

甘糟 りり子
河出書房新社
2018-09-26

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鎌倉の家

甘糟りり子

高い天井には太い梁、客間には囲炉裏、 庭に咲き誇る四季の花々、そして家族の食卓——。築90年、風情ある日本家屋で育った甘糟りり子さんが、鎌倉の魅力を美しく鮮やかに描き出すエッセイ。

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ririkong 更新されています。夏と秋の間の季節が一番好き。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite