鎌倉の家

受験より優先された我が家の大改築

高い天井には太い梁、客間には囲炉裏、 庭に咲き誇る四季の花々、そして家族の食卓――。築90年、風情ある日本家屋で育った甘糟りり子さんが、鎌倉の魅力を美しく鮮やかに描き出します。

シルクワンピースと革ジャンをくっつけたみたいな家

 合掌造りは日本建築の代表的な様式で、合掌する時の手のように太い梁を組み合わせることからこう呼ばれる。鎌倉の家は半分が数寄屋造りでもう半分が合掌造りという変わった造りだ。一口に「日本建築」といっても、種々多様。細長い日本列島には、さまざまな風習や食文化、そして建築様式がある。

「日本建築で最も華奢な数寄屋造りと最も頑丈な合掌造りがひとつになっている、めずらしい家」と、合掌造りの部分を手掛けてくださった建築家の瀧下嘉弘さんはいった。たとえてみれば、シルクにレースをあしらったワンピースと革ジャンが一着になっているようなものだろうか。「簡単に壊したりしないで、大切にしてくださいね」という瀧下さんの言葉は、私が少々不便なこの家に住み続けようと思う理由のひとつだ。

 その昔、父が向田邦子さんに、おもしろい青年がいるからと瀧下さんを紹介されたのがきっかけだった。鎌倉は梶原の山の上で骨董商を営んでいた瀧下邸に遊びにいった。瀧下邸は見事な合掌造りの移築建築で、すっかり心を奪われた父は「うちも改築して欲しい」と頼んだ。

 瀧下さんが合掌造りを専門にするようになった経緯がおもしろい。

 骨董商の合間に頼まれた通訳のアルバイトで知り合った南アフリカの大富豪が、アメリカ人の友人夫婦を連れて鎌倉にやって来た。彼らは東京に二軒、軽井沢に二軒の家を持っていた。好きなものをプレゼントするという夫に、妻は、骨董よりもこの家が欲しいといった。夫は続けた。

「瀧下さん、こういう家を一軒建ててください」

 これが最初の一軒だった。竣工すると、日本在住の外国人から注文が相次いだ。うちは五軒目。日本人の発注は初めてだったそう。

受験より優先された我が家の大改築

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

鎌倉の家

甘糟 りり子
河出書房新社
2018-09-26

この連載について

初回を読む
鎌倉の家

甘糟りり子

高い天井には太い梁、客間には囲炉裏、 庭に咲き誇る四季の花々、そして家族の食卓——。築90年、風情ある日本家屋で育った甘糟りり子さんが、鎌倉の魅力を美しく鮮やかに描き出すエッセイ。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません