村上春樹の読み方『羊をめぐる冒険』中編

finalventさんの連載は前回に続き『羊をめぐる冒険』中編です。前回、この小説を読み解くにあたってより重要なのは、第三章以降の「冒険」ではなく、第一、二章に描かれた「喪失」だということが示されました。まるで、三章以降とは全く関係ないようにも見える二つのお話。そこに村上春樹はなにを描こうとしていたのか。必見の中編です!

繰り返される「直子の死」


羊をめぐる冒険(下) 講談社文庫

 構造に配慮しつつ主題に迫っていこう。作品の入れ子構造からして、主題は冒頭二章に提示されている。その視点で冒頭二章を見つめていくと、パズルというほどではないが、隠蔽されたかに見える主題はその細部に浮かび上がる。それはまたしても、「直子の死」である。直子の自殺は、曖昧ではあるがまず第一章で言及されている。1969年の冬から70年の夏の時期としてこう語られる。

 彼らの多くは大学をやめていた。一人は自殺し、一人は行方をくらませていた。そんな話だ。


 明示的ではないが、自殺は「直子」であり、失踪は「鼠」である。『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』にも対応している。

 またこの作品は、直子の自死が前二作のように、キーワードや日付を使って解くパズルとしては仕組まれてはいないが、それでも日付を追って見ていくと、直子の自死を覆うパズル的な様相は見て取れる。第一章の「誰とでも寝る女の子」は、1970年の夏に主人公との性関係を含めた関係を始めるが、前二作でいうなら、『風の歌を聴け』の表層の物語が終わり、『1973年のピンボール』(講談社文庫)でピンボールに没入する時期である。主人公は、『風の歌を聴け』(講談社文庫)で鼠の恋人に魅力を感じたように、またピンボールマシンに夢中になったように、「直子の死」の力によって、この時期に「誰とでも寝る女の子」との関係が引き寄せられる。ゆえに、直子が死んだと想定される年の晩秋、1970年の11月25日に「誰とでも寝る女の子」は主人公とこう語り合う。

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「極東ブログ」で知られるブロガーのfinalventさん。時事問題や、料理のレシピなどジャンルを問わない様々な記事を書かれているが、その中でもとりわけ人気が高いのが書評記事。本連載は、時が経つにつれ読まれる機会が減っている近代以降の名...もっと読む

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