アレとアレでソレする
映画、それもハリウッド製ロマンス映画などを観ているといっつも不思議に思うことがある。ひょんなきっかけで出会った二人。紆余曲折するうちに互いに心惹かれ、やがて何気ない会話の途中にふいに沈黙が訪れる。見つめ合う瞳と瞳。どちらからともなく顔が近づき、重なる唇……。
ここ! ここですよ。この百万回は観てる流れ。これ、どこで「チューしまひょか」「そうしまひょ」の合意が成されたんです?!
「目でしょ」と有識者は語る。瞳が想いを映し出し、言葉で語らずとも両人のチッスがしたいという気持ちが伝達したのだと。ほんとに? マジで~??
別に私もカマトトぶるつもりはない。チューくらいしたことあるモン(カマトトぶるな)。あるけど、こんな目と目で通じ合う微かに・ん…色っぽい流れでできたことはおそらくない。なんかこう、もっとキモくニヤニヤしながら迫るとかあからさまなタコ口を作ってギャグに逃げるとか、そういう非スマートなきっかけ作りしかできた試しがない。理無い仲のおなごにじっと見つめられても、その視線がチューのオファーなのか出ている鼻毛や歯に付いた海苔を指摘しようとしているのかの判別などつかない。言わんとわからん。別にこれは私が特別に朴念仁で鈍感だからというわけでもないと思う。
喋る目は実在するのか
「目は口ほどにものを言い」というフレーズは、ただのことわざの枠を超えて「事実」として流通している気がする。ロマンチックな話でなくとも、バトル漫画とかで「フ……貴様、いい目をしているな」みたいなセリフをみんな一度は読んだことがあるだろう。なるほどこいつは「いい目」をしてるんだな~と思いながらページをめくっていたけど、そもそもいい目ってどんな目だ。血などで濁っておらず黒目がはっきりし光っているものだろうか。そんな青魚の鮮度を見るような基準でいいんだろうか。リアルな日常生活でも「目つきが悪い(=性格が悪い)」「オドオドと視線をさまよわせている(=頼りない)」とか、何も言ってなくても目で内面の何がしかを評価されてしまうシーンはある。けど、ほんとに? ほんとにみんな「目」で相手のいろいろ、そんな分かります? 私はそれ、だいぶ懐疑的なんである。
恐怖のメモリー
あれは十八歳かそこらの頃。フリーライターを名乗っておずおずと文章仕事を始めたばかりの私に、ある出版社のそれも編集長から直々に仕事のオファーが来た。打ち合わせに指定された時間は夜で、場所は渋谷の居酒屋。本来ならこっちの年齢を知っているのにそんな場所を指定してくる時点で即レッドカード一発退場なのだが、当時の私はとても若くかなり相当Yeah!めっちゃバカだったので、大人扱いされた!と喜び勇んで名刺片手に出かけていった。
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