柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第26回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ファミコン時代の名作「UGOコレクション」全十本の移植という大きな依頼を受ける。ただ、実現には大きな障害があった。それは最後のゲーム「Aホークツイン」の権利だけを買い取った、開発者の赤瀬裕吾が行方不明であること。二人は赤瀬探しに奔走する。
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「実はな、きみたち以外にもう一社、移植の打診をしてきたところがある」
赤瀬の台詞に、灰江田はひっくり返りそうになる。
「そちらにも同様の条件を出すとしよう。一ヶ月後、日時はモニカに連絡させる。場所はきみたちに任せる。そこで是非を問うことにする」
「赤瀬さん。もう一社はどこですか」
 必死に聞き出そうとする灰江田に、赤瀬はからかうような笑みを返す。
「きみは私を騙してこの席に招いた。そうした策を、相手に弄する可能性もある。きみに教える義理はないよ」
「ぐっ」
 灰江田は顔をゆがめる。いったいどこの会社なんだ。
「それともう一つ。私が権利を買い取ったときに、マスターデータと最終仕様の資料だけ残して、Aホークツイン関連のものはすべて燃やした」
「えっ。ちょっと待ってください。それは本当なんですか」
 灰江田の言葉を無視して、赤瀬は立ち上がる。
「赤瀬さん」
「行くぞ」
 突き放すように言い、赤瀬は席を離れる。
「お父さん」
 静枝の声も無視して、赤瀬は進む。秘書は慌ててあとを追った。
 赤瀬がいなくなったあと、しばらく誰も声を出さなかった。暴風雨のような男が去ったあと、そこには打ちひしがれた者ばかりが残された。
「父が、あそこまで傲慢な人だったなんて……。それと灰江田さん、人の結婚式をなんだと思っているんですか?」
 静枝が怒りの目を灰江田に向ける。
「灰江田さん無茶ですよ。どうやって存在しないゲームの移植をするんですか」
 静枝の横で、コーギーが涙目になっている。灰江田はなだめようとするが、コーギーはテーブルに突っ伏してしまった。仕方がないと思いながら灰江田は山崎に顔を向ける。
「山崎さん。白鳳アミューズメントに、Aホークツインの開発途中のロムや資料は、本当にないんですか」
「ないよ。白野くんに渡した以上のものは、どこにもなかったもん」
 灰江田は顔面を蒼白にする。それじゃあ完全な移植なんかできない。ロムも資料も燃やした赤瀬は、当然復元不可能なことを知っているはずだ。
「山崎さん。それじゃあ、どうやって完全なAホークツインを作ればいいんですか」
「僕の方が知りたいよ灰江田ちゃん。きみはなんで、あんなことを言ったんだよ」
 山崎は頭を抱えて、うんうんとうなる。
 灰江田は呆然とする。しばらく斜め上を見たあと、視線を山崎に戻した。
「開発中のロムや資料は、存在しない……」
「そうだよ」
「じゃあ、それ以外のなにかを利用して、完全なAホークツインは再現できるはずです。復元不可能なことを実証すれば負けを認めると赤瀬さんは言った。つまりあの人は、いま残っているものだけで復元可能なことを知っているんだ」
 灰江田の言葉に、コーギーがゆっくりと顔を上げた。
「現在残っているもの。つまりプログラムや市販されているロムのデータに、秘密が隠されている可能性がある。そういうことですか」
「赤瀬さんが嘘を吐いていないなら、そういうことになる」
 コーギーは目尻に浮かんだ涙を拭き、技術者の眼差しになる。
「できそうか」
 灰江田は体に力を込めてコーギーに尋ねる。
「分かりました、やってみます」
 コーギーは、魔王に挑む勇者のような顔をしてうなずいた。

 ホテルを出て電車に乗った。今日は平日、このあと会社に戻って仕事をしなければならない。
 静枝は座席の上で、大きく息を吐く。父親──赤瀬裕吾──には会えた。しかし、すんなりと娘の希望を叶えてくれる人ではなかった。実の娘との対面を喜ぶ様子など微塵もない。違う人生を歩んできた他人として扱い、灰江田が提案したゲームに勝利すれば願いを聞き入れると言った。

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新潮社
2018-05-18

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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