⑥中年バイキンマン(長いです)
かつては悪として鳴らしたバイキンマンは歳を取り、しょぼくれた中年サラリーマンになっていた。
満員電車で足を踏まれチカンと間違われ、部下だったかびるんるんに先に出世され、上司やお得意様にペコペコ。
狭い家に帰れば嫁のドキンちゃんの愚痴ばかり。
「バイキンマン、もっとお給料上がらないの?このままじゃこの子はバイキンマンと同じ落ちこぼれ人生よ」
親の悩みを知らず、赤ん坊のバイキンマンジュニアはにこにこ笑っている。
(ちなみにホラーマンはいまだにドキンちゃんが好きで、明るいストーキングをしている)
バイキンマンはかつての日々が恋しい。
アンパンマンと戦った燃え盛りし日々。
生きている実感があった。
どうにかしてあの日に帰りたい。
アンパンマンはどこに行った——?
バイキンマンはドキンちゃんに訊ねる。
「アンパンマンのこと覚えてる?あいつはいまどうしているんだ?」
ドキンちゃんの顔が蒼白になる。
「忘れちゃったの?バイキンマンがアンパンマンを倒したんじゃない?」
「ええっ、ジャムおじさんはアンパンマンに新しい顔を作らなかったの?」
「何言ってるの?バタ子さんと工場ごと燃やしたじゃない」
「誰が?」
「バイキンマンが!」
「………………」
「かわいそうに。念願の打倒アンパンマンを果たしたのに、ライバルを失くしたショックで記憶が飛んでいるのね」
「ドキンちゃん、おいらはなんでアンパンマンを倒したのに、この世界の王様になっていないんだ?
正義を倒したんだから、おいらが悪の王様になっていいのに」
「バカね、バイキンマン。正義と悪は諸刃の剣。悪が滅んだら正義の存在意義が無くなるけど、正義が滅んでも悪は失墜するのよ。
だからいまバイキンマンはこんなしがない生活を送っているんじゃない」
バイキンマンは言葉を失くす。
その日も上司や、かびるんるんに嘲笑される。
バイキンマンは会社から逃げ出す。
スーツを脱ぎ、ネクタイを投げ捨てる。
向かうはバイキン仙人のもと。
バイキンマンは問う。
「バイキン仙人、どうやったらアンパンマンやジャムおじさんは甦る?」
「遠い霧の世界の果ての果て、何でも復活させる赤い花が1年に一度咲くという。
その花の露があれば、病気で苦しんでいる者はたちまち治り、死んでいるモノも生き返るという。
それがあればアンパンマンを復活させることができるかもしれない」
バイキン仙人でさえ、それ以上のことはわからない。
もっと詳しい場所を知ろうと、氷の女王、すなおとこ、メコイスの大魔王などに訊いて回る。
——アンパンマン、待ってろ!
そして遂に赤い花をゲット。
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