山小屋は恋がめばえやすい!?
山小屋では毎年カップルが誕生する。
まぁ、考えてみれば当たり前だ。私のいた山小屋はスタッフの人数がそこそこ多く、そのほとんどが20代~30代で独身。しかも、閉鎖的な空間での共同生活。
こんなテラスハウスみたいな状況で(私の世代はラブワゴン)、恋がめばえないほうがおかしい。
そのため、恋愛ネタなら無数に書くことがある。今これを読んだ山小屋仲間はビビったかもしれないけど、書くときはたぶん許可を得るので安心してほしい。
……と書くと他人ごとみたいだけど、実は私も、山小屋で彼氏ができた。
今回は、山小屋での恋愛について。
はじめての山小屋バイトでKさんと出会った
第2話にも書いたが、はじめて山小屋でバイトをしたのは23歳のときだ。
バイト初日。山小屋に着くと、同い年の先輩・ミヤちゃんが出迎えてくれた。
彼女に連れられて奥の部屋へ行くと、数人のスタッフがそれぞれ作業をしていた。工作のようなことをしている人もいれば、テーブルに向かって何か書いている人もいる。
「新人のサキちゃん来たよー!」
ミヤちゃんが紹介してくれる。私は「よろしくお願いします」と頭を下げる。みんなそれぞれに自己紹介をしたり、話しかけてくれたり、おちゃらけたりしていた。
その中で、熱心に何かを書いていた男の人が顔を上げた。
その人は私を見て
「そのTシャツ……」
とつぶやいて、また作業に戻ってしまった。
えっ……!
私はそのとき、グラニフで買った写実的なキリンのTシャツを着ていた。
このTシャツが……何なんだろう?
それが、私とKさんの出会いだった。
はじめての山小屋生活はめちゃくちゃ楽しかった。
仕事はすぐに慣れた。接客、掃除、食事出しや洗い物。飲食店バイトの経験があったので、それほど困ることはなかった。
仲間にも恵まれた。その年は元気な人が多く、キャッキャしていて楽しかった。仕事が終わるとみんなでお酒を飲み、しょうもないことでお腹が痛くなるほど笑った。
だけど、たまに「ひとりになりたいな」と思うこともあった。
今思えば、慣れない環境で、知らず知らずのうちに心が疲れていたのだろう。
毎日会ってるのに、意外とお互いのことを知らない
9月になって、休暇で下山した。
Kさんとたまたま休暇がかぶったので、一緒に本屋さんに行った。店内では基本的に別行動で、ときたま声をかけ合う。
彼とふたりで過ごすのははじめてなのに、あまりにも気楽でいられることに少し驚いた。あんなに「ひとりになりたい」と思っていたのに、ひとりでいるのと同じくらい、気楽だった。
休暇の間、Kさんと色々な話をした。彼について、はじめて知ることがたくさんあった。
絵を描いていること。北野映画は「菊次郎の夏」だけ好きなこと。舞城王太郎が好きなこと。美大のデザイン科を辞めて、別の美大の油絵科に進んだこと。はじめて会った日に私が着ていたTシャツの、キリンのタッチが気に入ったこと。
毎日会っているのに、毎晩みんなで飲んでいるのに、私はKさんのことを何も知らなかったんだな。
知ったことではじめて、今まで知らなかったことに気づいた。