「結婚制度のなくなった未来」のことをおとぎ話と前置いて語り始めた若い男の話は続いていた。
なんだか言葉には出さない強い決意を隠し持っているらしい若い男は、池崎と高畑に対して最初からある不満を持っていた。彼はそれを端的に一言で伝えた。
「わかってもらおうとは思わない。でも僕がする話を信じて欲しい」
池崎はその言葉を聞いて、より単純な言葉を返した。
「君がさっきからしている話は、結婚がいかに必要のないものか、むしろ逆に出生率を押し下げて、社会制度の維持という観点において、害悪ですらある、という憶測だ。君がこれから選挙に出ることに関しては一向にかまわないが、今日ここに僕らが呼ばれた理由がまったくわからないよ」
「その理由についてはゆっくり説明します」
高畑も池崎に続いて若者に語り掛ける。高畑は池崎とちがって、この不思議な状況を楽しもうとしている節があった。この若者が熱をもって話をしている内容の辻褄が合わないところをまだ探していた。
「まぁ池崎くん、外は雨で、この廃屋には僕ら3人しかいない。彼が僕らを呼んだ理由もいずれ明らかになるだろう。もう少し、この若者の話に付き合ってあげてもいいんじゃないかな。少し興味もあるし。……ところで、結婚制度がなくなったら、死んだ時どうするんだい? 結婚しないで生まれた子どもはどこの墓に入るんだ?」
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