彼女が提案してきた、支払いをめぐる“不平等条約”
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 ひたすら恋バナを続けていくこの連載、9月は「恋愛とお金」について話していきます。お金って生々しいから、普段はちょっと話題にしづらいトピックだよね。
ワッコ 収入の話とか、センシティブだし。
森田 価値観に直結してるから、お金をめぐるやりとりによってその人の恋愛観とかジェンダー観が明るみに出ることも多いなと思う。
ワッコ それでいうと私は「おごり・おごられ」問題が気になります。
清田 ネットでもたびたび論争が起こるテーマだよね。
森田 我々のpodcast番組・二軍ラジオで「おごり・おごられ」について取り上げた放送回(第58回「恋とお金と男と女」)では、元メンバーの佐藤広報のエピソードが出てきたよね。彼がある女性とお付き合いを始めたときに、「外食する時のお金はあなたが出してね。家で食べる時の食材とかは私が出すから」と言われてびびったという話。
ワッコ 佐藤さん的には、自分の方が圧倒的に負担の大きい“不平等条約”だと思ったんでしょうね。
清田 その彼女は育ちも職業もセレブな感じの女性だったから、「どんだけいい店に連れてかなきゃいけないんだ」と思っちゃう気持ちはちょっとわかる。
森田 でも、ふたを開けてみたら彼女の家で食べることがほとんどで、外食は5回に1回くらいだった。彼女としては佐藤さんを、いいお店を選んだり、スマートにお金を払ったりできる「いい男」に鍛え上げたかったみたいだね。彼女のその気持ちがわかったから、佐藤さんもがんばってデートをエスコートしていたと。
ワッコ このエピソード、佐藤さんは「いい話」みたいに語ってましけど、私は聞いていてすごくモヤモヤしました。まず、4回分の料理の材料費+手間と、1回分の外食の支払いって、どう考えても釣り合ってないと思うんですよ。そうなった時点で違うやり方に変えればいいのに。
清田 確かに4回分の手作りのほうが高コストだよね。そう考えると、むしろ佐藤さんが得してる側の“不平等条約”だったのかも。まあ、彼女から提案したことではあるんだけど。
ワッコ そもそもそんなに手間暇かけて彼氏を“港区おじさん”みたいに育てたい気持ちが、私には理解できないんです。
森田 港区おじさん(笑)。
ワッコ バブルの匂いが正直きっついなあって。彼女は「スマートに払ってる俺(彼氏)」を演出してあげてるわけですよね。男を立てるその感じが、なんかすごい。そんな彼女の期待に応えたいって素直に思える佐藤さんも変わってますよね。
おごられた分だけ“ぬきぬき”する?
清田 「おごる・おごられる」っていう行為に対する感覚は、例えばバブルの頃に比べたらだいぶ変わってきてるとは思うのよ。ひと昔前はおごることが男のステータスだっただろうし、女性は女性で、男性からお金を注ぎ込まれることが「いい女の証明」的なところがあったはずで。けど今はそういう感覚を持ってる人、あまりいないんじゃないかなあ。
森田 でも、ペアーズとかomiaiみたいな婚活系アプリだと、「最初に会う時は男が全額払うのが当たり前」っていう感覚がマジョリティみたいじゃない? 男性のプロフィールには「初期デート費用」っていう選択項目があって、ほとんどの人が「全額支払う」か「多く支払う」を選んでいるらしい。これ、実際にアプリを使ってる女友達が教えてくれた情報なんだけど、彼女は「初回は男性に払ってもらえないとプライドが傷つく」と話していた。
ワッコ それも人によって違うと思うんですよ。個人的には、どんな場合でもおごられるのはとにかくイヤですね。おごられた分だけ相手のことを“ぬきぬき”してやらなきゃいけないっていう感覚がある。
清田 ぬきぬきって(笑)。
ワッコ 飲み会とかで男性のことを褒めたり、お酒を注いだり、昔の自慢話をしやすい空気をつくったりと、その場の主役にして気持ち良くさせてあげるのが“ぬきぬき”です。私はついつい“ぬきんちゅ”になっちゃうんですよね。あ、説明するまでもないと思いますけど、“ぬきぬき”する人のことを、女友達との間で“ぬきんちゅ”って呼んでます。
森田 (笑)沖縄の人に怒られるよ。
婚活アプリに見られる、典型的な男性のプロフィール例
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