なぜ人はモノを買うのか、ということを、この連載ではずっと考えてきました。今回は、これまでとは違う観点から、この問題について考えたいと思います。
タワシはゴボウの泥を落とすために使います。コップは液体を飲むために使います。ペンは文字を書くために使います。それぞれのモノには、こうした機能があります。私たちは、機能を買っているのです。
しかし私たちは、いつも機能を求めてモノやサービスを買うわけではありません。例えば、高級外車に乗っている人がいますよね。そういった人は、もし移動のための手段としてクルマが必要ならば、軽自動車でもよいはずです。なぜ軽自動車ではなく、高級外車ではなくてはならないのでしょうか?
安全性が高いから、居住性が良いから、デザインが美しいから、といったいろいろな理由があると思います。これらの機能は、軽自動車にはないか、不十分だったりします。
ではそれだけが理由でしょうか? もしかしたらその人は、自分がお金持ちであることをアピールしたくて、高級外車に乗っているのかもしれません。これをソースティン・ヴェブレンという100年以上前に生まれた学者が「見せびらかしの消費」と名付けました。今日は、これについて考えましょう。
突然ですが、「トロフィーワイフ」っていうことばを聞いたことがありますか? 金持ちの妻になった若い美人のことを指すことばです。アメリカの年老いた富豪が親子ほど年が離れたモデル出身の美人と結婚するといった例って結構ありますよね(世界一有名なあの夫婦のことです)。そんな金持ちにとって、若い美人の妻は、自分が成功者であるとか、金持ちであるということを世にアピールするための「トロフィー」だと、この言葉は言っているのです。
誰と結婚しようが人の勝手ですし、トロフィーワイフという表現は、その女性に対して大変失礼です。ただ、この考え方は、見事にヴェブレンの見せびらかしの消費という古典的コンセプトにフィットするものです。
見せびらかしの消費とは、このように自分がリッチであることをアピールするために消費をするということです。ですから消費の対象は、必ずしも機能が備わっている必要はありません。高級外車は、機能性がゆえに選択されていることもあるでしょうが、一方で、見せびらかしの手段として役に立つから選択されているのです。
では、見せびらかしの消費は、金持ちだけがすることなのでしょうか? そんなことはありません。アピールの内容が金持ちだということではなく、趣味の良さとかオシャレのセンスだったりすることがあります。その21世紀的な典型例は、インスタグラムでのキラキラアピールです。インスタグラムにアップしたラテアートは、美味しいからという理由だけで買われたわけではありません。ラテアートのようなオシャレアイテムを楽しんでいることを、みんなにアピールしたいのです。ちょっとシニカルな分析ですが、こういったシニカルさは、ヴェブレン理論の真骨頂です。
見せびらかしの消費とともに、ヴェブレンは「見せびらかしの余暇」ということばも残しています。金持ちはなぜ礼儀作法を身につけているのでしょうか? 身分が高いからでしょうか? ヴェブレンは、こう考えます。
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